第9のサヨナラ
ガラスの靴じ
ゃ
、
ス
|
パ|
にいけない
。
その5
昼間のフ
ァ
ミレスは、
そういう他愛もない、
けれど悪意に満ちた噂話に侵されている
。
一緒にいる間はいいけれど
、
別れた後は、
どっ
と疲れる。
それが嫌で
、
別行動をとろうとすると居場所を失っ
てしまう。
だから、
みんな嫌だけど
、
参加している。
おかしな話だけど
、
世の中なんて、
そんなもんだ。
浮気をする人と
、
しない人。
そんな線引きあるわけがない。
幸せと不幸せ
。
そんな境界あるわけがない。
もしあるとしたら、
ゆるやかな幸せという一団があ
っ
て、
その中で、
上と下をチラチラ伺いながら生きている
。
それだけだ。
夫は浮気をしているだろうか
。
しているかもしれないと私は思
っ
た。
人は幸せになるためなら
、
どんなこともする。
そこに幸せがあると思えるなら
、
世間的には不幸だと思われることにも
、
人は喜んでその身を投じるだろう※
ぶううん
。
ぶうううん。
また
、
カバンの中の携帯電話が振動し始める。
パシ
ャ
。
彼が首から提げたカメラを構えた
。
至近距離から
、
レンズを向けてくる。
﹁
やめてください﹂
私はカバンをお腹に抱きしめながら言う
。
パシ
ャ
。
彼はそれでもシ
ャ
ッ
タ|
を切っ
た。
マンシ
ョ
ンを売っ
た。
ゴ
|
ルデンレトリ|
バ|
を手放した。
レ
|
スのカ|
テンを処分した。
あれから
、
私は多くのものを失っ
た。
中には
、
自分から手放したものもある。
たとえば
、
友人とは、
ほとんど連絡を取らなくなっ
た。
積もり積もっ
た嫉妬とか、
やっ
かみが、
利子をつけて戻っ
てくる。
そう考えると恐ろしか
っ
たのだ。
彼がカメラを下ろす
。
﹁
写真、
後であげますから、
連絡先教えてもら
っ
てもいいですか﹂
と言っ
た。
ぶううん
。
携帯は鳴り続けている。
何と返事をするべきか
、
色々
なことを考えた。
多くは子供のことだ
っ
た。
上の子は、
来年、
小学校に上がる。
下の子は
、
最近、
ママと、
ばあばの区別がつくようになっ
た。
私にも
、
まだ失うものがあることが、
少し嬉しかっ
た。
そうや
っ
て、
幸せを確認することが、
正しいのか間違っ
ているのかは分からない
。
でも、
少なくとも、
私は友人達から﹁
知子はいいよね
﹂
っ
て言われることで、
自分の幸せを自覚していた。
そういう生き方をしてきた
。
幸せに
、
本当に、
上下はあるだろうか。
考えた。
多分
、
あるのだろう。
だから
、
そこには、
終わりがない。
﹁
暑いですねえ﹂
彼は上空を見上げると
、
額の汗を拭っ
た。
きらきらで
、
ゆらゆら。
真夏とも思えるような、
強い日差しだっ
た。
私は強い目眩を感じて
、
思わず、
しゃ
がみこんだ。
幸せ
っ
て、
何て、
悲しいんだろうと思っ
た。
結局のところ
、
降りたつもりでいた、
螺旋階段は、
どこまでも続いていたのだ
。
﹁
大丈夫ですか﹂
彼が手を差し出す
。
私はその手をつかんで立ち上がると
、
ヒ|
ルを脱いだ。
時計を見る
。
もうそろそろ開店する時間だ
。
了