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第
1
0
のサヨナラハルウララ
、
サイレンスズカその5
連戦連勝で迎えた
、
秋の天皇賞。
サイレンススズカにと
っ
ては、
これまでで最も大きなタイトルへの挑戦になる
。
ツヨシは男に
、
競馬場に連れて行っ
てもらうよう懇願した。
﹁
ママには内緒だよ﹂
男は喜んで連れて行っ
てくれた。
手を引いてくれた男の
、
もう一方の手には馬券が握られていた。
母親からくすめたに違いない
、
なけなしの金で買っ
た馬券。
倍率は1・
1倍。
サイレンススズカの単勝馬券だ
っ
た。
﹁
どうなっ
たんだ﹂
俺は聞いた
。
﹁
そいつは勝っ
たのか﹂
やけに気になっ
た。
ツヨシは
、
少し言い淀んでから﹁
壊れた﹂
と応えた。
そして、
直線の入り口に聳え立つ
、
大けや木を指差した。
あの日
、
サイレンススズカは、
最後の直線を迎えようとする
、
まさにその時、
走るのをやめた
。
スクリ
|
ンに映し出されたのは、
ぶらぶら、
ぶらぶら、
前脚がありえない角度で折れ曲が
っ
てしまっ
たサイレンススズカだっ
た。
母親が
、
修学旅行のために積み立ててくれたお金は、
そうして紙切れにな
っ
たと、
ツヨシはケタケタ笑っ
て言っ
た。
※
﹁
その馬は、
どうしたんだ﹂
ひどく気にな
っ
た。
﹁
死んだのか﹂
ツヨシは
、
ふ|
っ
と深呼吸をすると﹁
殺された﹂
と答えた。
走ることが運命付けられたサラブレ
ッ
ドにとっ
て、
脚は命に同じだ
。
たとえ
、
手術して治っ
たとしても、
もう二度と思うように走ることはできない
。
ギブスをして安静にしていても
、
脚から徐
々
に腐っ
ていっ
てしまうこともある。
二度と走れなくてもいい
。
それでも何とかして、
命を永らえさせてほしい
。
多くのファ
ンから延命措置を願う声が上がっ
た。
ツヨシもその一人だ
っ
た。
だが
、
その一方で、
走れないサイレンススズカなど、
サイレンススズカではない
。
早く楽にしてあげるべきだという声も数多く上がっ
た
。
﹁
殺されたんだよ﹂
ツヨシが吐き捨てるように言う
。
俺は
、
いたたまれない思いだっ
た。
き
っ
と、
多くの人がサイレンススズカに、
自分を重ね合わせていたのだろう
。
他者を廃し、
どこまでも高みを目指そうとする、
その健気な姿に
、
単なる強さへの憧れだけではなく、
自らの弱さの克服を願
っ
た者もいただろう。
走れないサイレンススズカなんて
、
サイレンススズカではない
・
・
・
俺も
、
もしその場に立ち会っ
ていたら、
そう考えたかもしれない
。
﹁
殺されたんだ﹂
あんたのような人間が寄
っ
てたかっ
て、
サイレンススズカを恐ろしいスピ
|
ドで走らせ、
その結果
、
死に追い込んだんだ。
俺にはそう言
っ
ているように聞こえた。