第
1
0
のサヨナラハルウララ
、
サイレンスズカその6
﹁
雄也さんも、
きっ
と死なないと、
とまらないんだね﹂
ツヨシが言
っ
た。
﹁
そうかもな﹂
俺は応えた
。
確かに、
負けるぐらいなら、
死ぬことを選ぶだろうと思
っ
た。
強がりではなかっ
た。
﹁
雄也さんは、
どうしたいわけ?
﹂
ツヨシが言
っ
た。
興奮して声が、
裏返っ
ている。
﹁
まだお金が欲しいの?
?
?
?
それともレイコさんと それでいて 欲張り
?
、
会社も守りたい?
だよ
。
死ぬよ、
そんなことしてたら。
ポキっ
て折れて、
競争中止だよ
。
走れないサラブレッ
ドには価値がないんだよ。
予後不良だよ。
殺されるよ
﹂
ツヨシがまくしたてるなんて
、
初めて見た。
﹁
俺の心配なんかするなよ﹂
﹁
心配なんかしてないよ。
なんか、
見ていてむかつくんだよ﹂
※
いつだ
っ
たか忘れてしまっ
たが、
ツヨシが事件を起こして
、
警察にし
ょ
っ
ぴかれたことがあっ
た。
警察から電話がかか
っ
て来た時は驚いた。
何の罪状かというと
、
店の行列に横入りして
、
トラブルを起こしたのだいう。
俺が知る限り
、
行列に並ぶ人を﹁
ご苦労様﹂
とあざ笑いこそすれ、
そんなことをして
、
得をしようとする人間ではなかっ
た。
﹁
別に﹂
聞けば
、
そもそも、
そこが何の店で、
何を求めて行列ができていたのかさえも知らなか
っ
たらしい。
警察の問いかけにも、
頑として口をつぐんだままだ
っ
た。
事件の現場にな
っ
たのは、
俺の会社のあるビルの近くで、
訳も分からず責任を感じた
。
﹁
なんか、
むしゃ
くしゃ
したんだ。
見ていて、
むかついたんだ。
本当だよ
。
﹂
むかつく
。
あの時も、
ツヨシはそう言っ
ていた。
﹁
いつも思っ
てた。
雄也さんの会社に行くたびに。
こいつら何並んでんだ
っ
て。
幸せに順番待ちなんてないだろ。
並んだら幸せが手に入る
っ
て、
そう思っ
てるところが頭くるんだよ﹂
ツヨシは
、
ずっ
と以前から、
何かを得るために戦うのではなく、
得たものを失わないために戦う俺を
﹁
不毛だ﹂
と嘲り続けてきた。
すべてを手放してしまえば楽になるのにと
。
※
﹁
ねえ﹂
ツヨシが言
っ
た。
﹁
一緒に死んであげようか﹂
フ
ァ
ンファ
|
レの音がした。
タ
|
フに次のレ|
スに参戦するサラブレッ
ドが続
々
と入場してくる。
﹁
それもいいな﹂
俺は笑い返した。
﹁
よし﹂
ツヨシがぴょ
んと跳ねた。
﹁
賭けようよ﹂
﹁
何を﹂
﹁
人生さ。
決まっ
てるだろ﹂
柵沿いに歩みを進めてきた一頭の馬が
、
ツヨシに吸い寄せられるように歩み寄
っ
てきた。
ツヨシが差し出した手に、
人懐っ
こく鼻面を摺り寄せてきた
。
きれいな栗毛の馬だっ
た。
﹁
僕は、
この馬でいいよ。
雄也さんは?
﹂
﹁
俺?
﹂
ツヨシは6番のゼ
ッ
ケンをつけた馬を見送ると﹁
雄也さんが勝っ
たら、
一緒に死んであげるよ﹂
と言っ
た。
﹁
お前が勝っ
たら?
﹂
﹁
雄也さんは会社を辞める。
手を引く﹂
﹁
それは無理だ﹂
﹁
僕だっ
て命を賭けるんだ。
それぐらい無理なことをしてもらわなくち
ゃ
﹂
﹁
むちゃ
くちゃ
だな﹂
﹁
あ、
あと一つ、
追加してもいい?
﹂
﹁
何を﹂
﹁
僕が勝っ
たら、
レイコさんとやり直すこと﹂
﹁
レイコと?
﹂