第9のサヨナラ
ガラスの靴じ
ゃ
、
ス
|
パ|
にいけない
。
その4
あれから1年
。
私達の生活は
、
一変した。
夫の会社の窮乏が
、
テレビで大々
的に取り上げられるようになり、
それから
、
しばらくして、
夫は早期退職という形で、
ひっ
そりと会社を辞めた
。
リストラ断行に反対しようとして、
上司と喧嘩したとか
、
しないとか、
詳しくは聞いていない。
履歴書を片手に三
ヶ
月の間、
夫は就職活動に励んだが、
なかなか決まらなか
っ
た。
もとから
、
プライドが高く、
その上、
多くを語らない寡黙な人柄だっ
た。
自分をアピ|
ルするのは苦手だっ
たのだろう。
や
っ
と決まっ
たと思っ
た、
都内を遊覧するセスナのパイロッ
トの仕事も
、
自分にはやっ
ぱり向いていないとかで、
すぐに辞めてしまっ
た
。
案外、
根気がない人だと、
私はその時、
初めて知っ
た。
今は
、
先輩の勧めもあり、
整備工場で、
整備工のような仕事についているが
、
それも期間限定でいつまで続くかは分からない。
収入は
、
一時期の5分の1以下まで落ち込んだ。
マンシ
ョ
ンのロ|
ンは、
34年、
ほぼ丸々
残っ
ていた。
日
々
の生活をやりくりするだけではどうしようもない。
結局
、
私たちはマンショ
ンを手放し、
夫の実家がある、
埼玉の所沢に身を寄せることにな
っ
た。
※
﹁
今日は、
仕事は休みなんですか?
﹂
﹁
いえ、
主婦ですから﹂
彼は驚いた様子で
、
﹁
へ~、
全然見えませんね﹂
と言っ
た。
その言葉を嬉しいと思うのは
、
女なら当然のことかもしれないが、
それは
、
1年前と同じ意味合いの喜びではなかっ
た。
あれから
、
マンショ
ンを売っ
た。
車を売
っ
た。
熱帯魚を売
っ
た。
手に入れたものが
、
どんどん失われていっ
た。
一緒に暮らし始めた夫の母親は
、
節約が信条で、
贅沢を許さない人だ
っ
た。
﹁
もっ
たいない﹂
が口癖で、
電気はコンセントから抜けとか
、
お風呂は3日に一度にしろ、
残り湯を洗濯に使え・
・
・
悪気はないのだろうが
、
当初は徹底的にダメだしされた。
現在では、
買い物は1円でも安いものを求めて
、
自転車でス|
パ|
を回る毎日だ。
﹁
てっ
きり、
同い年位かと思っ
ていました﹂
彼が笑
っ
て言う。
私の笑顔は引きつ
っ
ていたと思う。
熱帯魚を買うためだけに
、
念入りに化粧をして、
ヒ|
ルを履かなければならない
、
余裕を失っ
た身の上に、
お世辞はひどく堪えた。
※
夫は最近
、
家に帰っ
てくるのが、
目に見えて遅くなっ
ていた。
帰
っ
てきても、
酒を飲んでいる場合が大半で、
夜、
求めてくることもなくな
っ
た。
もしかしたら
・
・
・
浮気しているかもしれない。
昔だ
っ
たら、
たとえ、
そう思っ
たとしても、
そんなわけないっ
て、
夫に限
っ
て、
そんなことありえないっ
てタカをくくっ
ていられたけれど
、
今はそれができない。
余裕がない。
私はかつて
、
世の中に、
浮気をする人と、
しない人。
そういう線引きが存在するのだと思
っ
ていた。
そして、
私も、
夫も、
浮気をするようなタイプではない
。
そう思っ
ていた。
世間知らずだっ
た。
そういうことを考える必要さえない
、
幸せの中に、
どっ
ぷり浸かっ
ていた
。
﹁
でも、
下を見ればきりがないから﹂
保育園のママ友の言葉を
、
ふと思い出す。
保育園帰りのフ
ァ
ミレスで聞かされた、
ご主人に不倫された、
近所の奥さんが
、
先月、
会社に乗り込んでいっ
て、
不倫相手の女性と大立ち回りを演じたという噂話の最中だ
っ
たような気がする。
﹁
結婚して10年。
まだ幼い娘さんもいるのにねえ﹂
結局
、
旦那さんは会社を自主退職に追い込まれて、
家族も崩壊したと
、
そのママ友は声を潜め笑っ
た。
下卑た笑いだっ
た。