第9のサヨナラ
ガラスの靴じ
ゃ
、
ス
|
パ|
にいけない
。
その3
中身より
、
形から。
大して
、
努力もせず、
それでいて、
結果だけを得る。
私には
、
昔から、
そういう﹁
節﹂
があっ
たらしい。
夫と結婚することを知らせた時も
、
周囲の友達からは、
玉の輿だと言われ
、
﹁
やることはやるよね﹂
とずいぶんとやっ
かまれた。
夫と会
っ
たのは、
24歳の時のことだ。
合コンでもなければ、
友達の紹介で知り合
っ
たわけでもない。
それは運命的な出会いだっ
た。
ある時
、
私が担当していたツア|
で、
トラブルが生じた。
ツア|
コンダクタ
|
が急遽、
伝染病にかかっ
てしまい、
フライトできなくなっ
てしまっ
た。
それで、
急遽、
私が同行することになっ
た。
﹁
一週間の間、
死に損ないのお年寄りの相手をするだけ﹂
渋る私を
、
上司はそう言っ
て送り出した。
そこで出会っ
たのが、
パイロ
ッ
トを務めていた夫だっ
たのだ。
※
結婚式では
﹁
一目ぼれ﹂
と表現された出会いだが、
夫が
、
私の何を気に入っ
たのか。
正直、
分からない。
彼には地位があり
、
お金があり、
将来があっ
た。
少なくとも、
私以外にも
、
選択肢をたくさん持っ
ていたはずだ。
私には
、
何もなかっ
た。
だから
、
過剰な期待を抱かないようにした。
期待しなか
っ
たわけじゃ
ない。
大手航空会社に勤めるパイロッ
トだ。
それはもう
、
人並みには期待した。
ただ、
おくびにも見せなかっ
た。
それは作戦というには
、
余りにお粗末なものだっ
たが、
結果的に功を奏した
。
夫は
、
私のそのガツガツしていないところを気に入っ
てくれたらしい
。
私が結婚すると告げた時
、
親は、
泣いて喜んだ。
私も嬉しか
っ
たけど、
それより、
むしろ安心した。
傍から見れば呑気そうに見える私だ
っ
て、
それなりに努力してきた。
幸せになるために
、
誰かと自分を比べてきた。
少しでも劣っ
ているところを見つけると心が苦しくな
っ
た。
一生懸命、
勝っ
ているところを見つけようとして
、
また苦しくなっ
た。
結婚することで
、
そういう不毛な螺旋階段から降りることができた。
そんな気がして
、
ほっ
としたのだっ
た。
※
﹁
熱帯魚はいいですか﹂
男性が言う
。
開店までまだ30分ほどあっ
た。
﹁
・
・
・
見ていて、
気分は和みます﹂
﹁
確かに、
きらきらして、
ゆらゆらしてますもんね﹂
きらきらで
、
ゆらゆら。
彼の言葉を口の中で呟く。
ふと海辺の景色が
、
ぼんやりと蘇っ
た。
いつどこで見たものかは、
分からない
。
ただ、
懐かしい光景だっ
た。
熱帯魚は、
私にとっ
て、
失われた何か
、
手放してしまっ
た何かの象徴なのかもしれないと思っ
た。
﹁
熱帯魚に興味があるんですか﹂
私は恐る恐る聞いた
。
﹁
いえ、
別に﹂
彼は笑っ
た。
﹁
カメラマンの方なんですよね﹂
﹁
まあ、
食べてはいけてませんけど﹂
彼は空を見上げると
、
まぶしそうに目を細め﹁
熱帯魚っ
てきれいで、
おいしそうですよね
﹂
と言っ
た。
本気か冗談か
、
よく分からない。
面白い人だと思っ
た。
不思議と
、
不快さは感じなかっ
た。
ぶううん
。
ぶうううん。
その時
、
カバンの中で携帯が振動した。
き
っ
と義母からだ。
知子さん
、
どこで油を売っ
ているの?
お昼の支度なんだけど
、
任せてもよいのよね?
義母は
、
へりくだりながら、
威圧的に言うのだろう。
ぶううん
。
ぶうううん。
私はその音を意識から掻き消すように﹁
どんなの撮るんですか
﹂
と言っ
た。
彼は、
ぶううん、
ぶううんと、
なおも鳴り続ける私のカバンをチラ
っ
と見てから、
﹁
幸せとか、
不幸せとか
、
色々
です﹂
と答えた。
※