第9のサヨナラ
ガラスの靴じ
ゃ
、
ス
|
パ|
にいけない
。
その2
転機は
、
突然訪れた。
﹁
会社がつぶれる﹂
出張から戻
っ
てきた夫がある日、
突然言っ
たのだ。
夫は当時
、
誰もが名前を知っ
ている、
大手の航空会社で働いていた。
国際線のパイロ
ッ
トだっ
た。
聞けば
、
会社は上層部の放漫経営のために、
ずいぶん前から、
財政難に陥
っ
ていたらしい。
それが、
最近の不景気の影響を受け、
いよいよまずいところまで来たという
。
今
、
国からの融資や、
買収先を募っ
ているところだが、
いずれにしても
、
大幅なコストカッ
ト、
つまり、
リストラは避けられない、
と夫は言
っ
た。
私には
、
その時、
事の重大さがよく分かっ
ていなかっ
た。
だ
っ
て、
大きい会社なのだ。
パイロッ
トなのだ。
﹁
大変ねえ﹂
そんな気の抜けた返事をしたような気がする。
﹁
他人事じゃ
ないんだぞ﹂
夫は
、
責めるように言っ
た。
思えば
、
私の人生は、
その時すでに、
大きな渦のような運命に、
ぐるぐるぐるぐるぐる
、
翻弄され始めていたのかもしれない。
※
﹁
熱帯魚、
好きなんですか﹂
後ろに並んでいた男性が
、
ふと言っ
た。
私に向かっ
て話しかけていると気づくまで
、
少し時間がかかっ
た。
﹁
はい﹂
私は
、
浮かせていたヒ|
ルの踵を履きなおすと、
当たり障りのない答えを返した
。
カメラを首から下げている
。
カメラマンか何かなのだろうか。
まだ20代前半ぐらい
。
若い。
﹁
何で、
こんなに行列してるんですかね﹂
﹁
先着順で、
安く手に入るんです﹂
私は
、
手にしていたチラシを見せた。
﹁
はあ﹂
男性は納得のいかない様子で
、
行列を眺め回すと、
﹁
なんか、
異様ですよね
﹂
と低く笑っ
た。
男性は
、
自分はこの界隈に住んでいるのだが、
毎朝、
ここに行列ができるのを不思議に思
っ
ていた。
今日、
偶然余裕があっ
たので、
その理由を知りたくて列に並んでみたと言
っ
た。
﹁
結構、
熱帯魚好きな人っ
て、
多いんですねえ﹂
﹁
いえ、
多分、
業者の方が多いだけだと思います﹂
と私。
﹁
業者?
﹂
﹁
ここは、
一般向けというよりは、
どちらかといえば、
業者向けのお店ですから
﹂
﹁
へえ。
じゃ
あ、
ここで仕入れて、
ほかで売る、
みたいな﹂
﹁
はい。
多分ですけど﹂
﹁
詳しいんですね﹂
﹁
いえ、
別に﹂
※
結婚する以前
、
わずかな間だけだが、
熱帯魚を飼
っ
ていたことがあっ
た。
親元を離れて
、
一人暮らしをはじめた頃のことだ。
当時
、
私は旅行代理店に勤めていた。
毎日
、
終電続きで、
家と会社を往復するばかり。
とても忙しい毎日を送
っ
ていた。
買い物に出かける暇もなければ、
そもそも、
おしゃ
れをする機会もなか
っ
た。
せめて
、
長らく時間をすごす、
部屋だけでも着飾ろうとして、
インテリアに力を入れた
。
カ
|
テンレ|
ルをフッ
ク型のものに入れ替えたり、
ベランダにレンガを敷いてみたり
、
北欧製の家具を買っ
てみたり・
・
・
色々
やっ
たけれど
、
熱帯魚を買うことを思いついた時は、
さすがに躊躇した。
1
D
K
の小さなアパ|
トだっ
た。
階下に住む人の足音が
、
電気から吊り下がっ
た紐の震えとなっ
て伝わ
っ
てくるようなアパ|
トだっ
た。
そんな部屋に
、
熱帯魚だなんて・
・
・
身の程知らずだ
っ
てことは、
自分でもよく分かっ
ていた。
でも
、
私は、
昔から、
そういうミ|
ハ|
なところがあっ
た。
光G
E
N
J
I
なら諸星君。
S
M
A
P
ならキムタク。
みんながいいという、
疑いのないものが好きだ
っ
た。
だから
、
東京で働いて一人暮らしをすると決めた時も、
場所と、
間取りにこだわ
っ
た。
下北沢が近くて、
ロフトがあっ
て、
近くにおしゃ
れな喫茶店がある場所。
すべて
、
幼い頃に見た、
トレンディ
ドラマの影響だ。
東京で働くということは
、
そういうことなんだと、
勝手に思い込んでいた
。
※