第9のサヨナラ
ガラスの靴じ
ゃ
、
ス
|
パ|
にいけない
。
その1
﹁
めでたしめでたし﹂
から始まる、
おとぎ話があ
っ
てもいいと思う。
シンデレラ
、
白雪姫、
傘地蔵、
花咲じいさん・
・
・
子どもの頃
、
読み聞かせてもらっ
た童話達。
どれも
、
﹁
めでたしめでたし﹂
で終わる物語ばかりだ。
シンデレラは
、
どんな風にして、
宮中の生活に溶け込んでいっ
たのだろう
。
堅苦しいしきたり、
権力争い。
色々
あっ
たはずだ。
欲深い継母は
、
お金をせびらなかっ
ただろうか。
王子様は浮気しなかっ
ただろうか
。
そこには
、
きっ
と、
いろんな苦労があっ
たはずだが、
それらは描かれていない
。
すべては、
﹁
いつまでもいつまでも、
末永く幸せに暮らしましたとさ
﹂
その一文で要約されてしまう。
私は
﹁
めでたしめでたし﹂
の続きが、
知りたいと思う。
本当に大切なのは
、
幸せになることではなく、
手に入れた幸せを手放さないようにすることであ
っ
て、
幸せでい続けることは、
幸せになることよりも
、
ずっ
とずっ
と難しいことだから。
※
足の指先がひどく痛んだ
。
久しぶりに
、
ヒ|
ルのある靴を履いたせいだ。
時計を見る
。
熱帯魚屋が開店するまで
、
まだ1時間近くあっ
た。
平日の朝早くだというのに
、
店の入り口から伸びた行列は、
すでに30人以上を数え
、
駐車場の入り口でタ|
ンして折り返そうとしている
。
ほとんどが
、
50、
60代の年寄りばかりだ。
ちらほら、
若い人の姿も見えているが
、
それも学生と思しき男の子ばかりで、
自分のような年頃の女性は一人もいない
。
キ
ョ
ロキョ
ロ周囲を見回していたら、
すぐ後ろに並んでいた、
リュ
ッ
クサッ
クを背負っ
た若い男性と、
ふっ
と目が合っ
て、
私は自分の胸のうちを見透かされたような気がして
、
慌てて目をそらした。
※
熱帯魚が欲しい
。
そう思
っ
たのは、
先週末の夕暮れのことだ。
私はいつものように
、
保育園に上の子を迎えにいっ
たその足で、
ス|
パ|
に向かっ
ていた。
その日は
、
ポイントが5倍になる、
週に一度の特売日で、
店内はひどく混み合
っ
ていた。
1パ
ッ
ク10個入りの98円のL
サイズの卵。
100
g
128円の国産和牛カルビ。
子供が好きな皮なしのウインナ
|
。
夫が好きなマルミヤのザ
|
サイ。
100円の見切品のほうれん草
。
押し合いへし合いしながら
、
目的のものを手に入れて、
﹁
レジ袋はいりません
﹂
と5円をポイントに還元してもらい、
名前も知らないスポ
|
ツメ|
カ|
の名前が書かれたエコバッ
クに詰め込んで、
さあ帰ろうとした時
、
大輔の姿が見当たらないのに気づいた。
迷子にな
っ
たのかと慌てて、
店の中に戻ると、
大輔は、
大人達に混じ
っ
てビニ|
ル袋を、
ぐるぐるぐるぐる、
ぐるぐるぐるぐる、
巻きと
っ
ているところだっ
た。
私を見とめると
、
大輔はニコっ
と得意げになっ
て笑い、
﹁
ママ、
忘れ物
﹂
とビニ|
ル袋の塊を差し出したのだっ
た。
※
﹁
よくやっ
た﹂
義母なら
、
そう褒めたかもしれない。
私はダメだ
っ
た。
無性に切なくなっ
た。
1年前までは
、
ス|
パ|
のセ|
ルなんて行っ
たことなかっ
た。
行く必要もなか
っ
た。
私は
、
小伝馬町にあるマンショ
ンで、
夫と大輔、
それから生まれたばかりの赤ち
ゃ
ん、
家族4人で優雅な生活を送っ
ていたのだ。
南向きの最上階
。
バルコニ|
付きの3L
D
K
。
冬でも温かい床暖房。
料理をしながらでも会話が弾むカウンタ
|
キッ
チン。
誰かが訪ねてきた時のために
、
サ|
ビスル|
ムも1つあっ
た。
セレブとまではいかないけれど
、
レストランに出かけたら、
金額を気にしないで
、
好きなものを頼める、
それくらいの生活レベルにあっ
た。
ビニ|
ル袋を、
ぐるぐるぐるぐるするようなことは、
したことも
、
させたこともなかっ
た。
※