第8のサヨナラ
夏の日の花火感傷
その4
店を出ると
通りは
すごい人波だ
そろそろ花火大会も佳境を越えつつあるのかもしれない
駅へ向かう人の波に
僕と裕子さんは手を繋いだまま
飲み込まれ
と弾けて
ドン
不思議だよね
裕子さんが言
何が
花火の音
どうして一緒に聞こえてこないんだろう
ああ
光と音では
速度が違うから
ふうん
離れれば離れるほど
到達する時間も伸びていく
分か
たような
分からなか
たような
裕子さんは
て首を傾げる
笑顔が悲しげだ
ねえ
僕は
立ち止ま
て言
裕子さんは
僕といて楽しい
立ち止まる僕らの傍らを
駅へ向かう人の波が通り過ぎていく
辺の小石を避けるように
通り過ぎていく
楽しい
楽しいわよ
裕子さんは事も無げに答えた
楽しか
と弾けて
楽しか
裕子さんが言う
ン君は
楽しか
 
ドン
花火が弾ける音が
遠くに聞こえた
僕らは
知らぬ間に
もう
ずいぶん遠ざか
てしま
ていた
でも
行くんだよね
でも
行くの
裕子さんはに
こり笑
二人で会うのは
おそらく
これが最後になる
そう考えたら
一瞬だけど
何もかもを放り出して
あのカ
プル
がそうしていたように
その場に座り込みたい
そんな衝動に駆ら
れた
一度だけ
裕子さんの前で泣いた日のことを思い出した
それは
渋谷のレイトシ
|
トリコロ
|
を観た日のことだ
トリコロ
|
裕子さんが一番好きな映画だ
でも
僕はその映画のよさが全然
分からなか
むしろ退屈だ
と感じた
それが悲しくて
それが悔しくて
僕はその日
飲めないお酒を飲み
無様に泣いた
気にしなくていいの
裕子さんはその日
僕を中目黒にあるマンシ
ンに連れて行
慰めてくれた
分からないのは恥ずかしいことじ
ないから
分からないことは
今の自分にはまだ分からないというこ
とであ
時がたてば分かる日が来る
そういうことなのだと
だから
無力
無知
世間知らず
分からないことに対して
いらだ
てはいけない
可能性を信じて
人はも
謙虚になる
べきだと
どうかした
立ちすくむ僕に
裕子さんが言
僕はゆるゆると首を振
裕子さんが
手を伸ばす
僕の頭をぐし
ぐし
とかき回すと
ごめんね
と短く言
違うんだ
僕は
なおも首を振
正しい順序を経ていれば
裕子さんは遠くに行かなくて済んだので
はないか
そんな気がした
ンスはいくらでもあ
はずなのだ
僕が見逃していただけで
行こう
僕は裕子さんの手を握
て歩き出した
どこへ
花火を
花火を
と弾けて
ドン
僕は
人波をかき分け
ひたすら音のする方を目指した
確かに
僕には分からないことが多すぎる
何が分からないのかさえ
分からないくらいだ
でも
僕はまだ高校生で
それはし
うがないことなのだ
いつか
分かる日が来ると
信じるしかないのだ
サヨナラを言うのは今じ
ない
何を考えているの
裕子さんが言う
僕は花火の下に着いたら
んと言おうと思
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