第8のサヨナラ
夏の日の花火感傷
。
その1
遠くの夜空に上る
、
一筋の光の軌跡が
、
ぱ
っ
と弾けて、
火花を咲かせた。
たまや~
!
近くの席にいた集団が大声で叫ぶ。
一
、
二、
三・
・
・
ドン!
遅れて聞こえてきた衝撃波に
き
ゃ
あ!
と裕子さんが体を飛び上がらせる。
﹁
びっ
くりしすぎだから﹂
と僕。
裕子さんは舌をペロ
ッ
と出すと﹁
ごめんなさいね。
年が年なもので﹂
と答えた。
﹁
また、
そういうこと言っ
て﹂
裕子さんは
、
上目遣いで僕の顔をじっ
と覗き込む。
﹁
ウソ、
ごめんね﹂
と笑っ
た。
※
その日
、
僕は裕子さんと二人、
花火を見に来ていた。
本当は土手で見るつもりだ
っ
たのだけど、
大変な人だかりで、
途中で挫折してしま
っ
た。
僕らは結局、
オ|
プンテラスのあるカフェ
でお茶をしながら
、
彼方に微かに見える花火を見ることにしたのだっ
た
。
﹁
学校はどう?
﹂
裕子さんが言う
。
僕は肩をすくめると
﹁
まあまあ、
かな﹂
と答えた。
カフ
ェ
のオ|
プンテラスを吹き抜けていく風が心地よい。
﹁
勉強は?
﹂
﹁
ぼちぼち﹂
裕子さんは
、
ふふっ
と微笑むと、
﹁
これじゃ
お母さんみたいか﹂
と言っ
た。
その時
、
僕の耳に誰かが言い争う声が聞こえてきた。
﹁
何?
﹂
裕子さんが周囲をキ
ョ
ロキョ
ロする。
僕は
、
オ|
プンテラスの入り口の電柱の影に、
座り込んだ一人の女の子の姿を見つけた
。
その横には
、
男の子が途方に暮れた様子で立ち尽くしている。
年齢は
、
僕より少し上というところだろうか。
何を喋
っ
ているのかは分からない。
耳を済ませても
、
会話の内容までは聞き取れなかっ
た。
でも
、
喧嘩しているのに違いはなかっ
た。
※
﹁
どうして、
女の子は、
時と場所を選ばないの?
﹂
裕子さんは
、
言い争うカッ
プルを振り返ると、
声を潜めて﹁
どうかした
?
﹂
と言っ
た。
中学校の時の友達にね
。
大沢マキっ
て子がいたんだ﹂
﹁
大沢、
マキ?
﹂
﹁
仮名だよ﹂
裕子さんは驚いた顔をして
、
それから目を丸くした。
﹁
何で、
仮名なの?
﹂
﹁
何でっ
て・
・
・
その人に悪いから、
かな﹂
裕子さんは目を丸くさせる
。
﹁
ジュ
ン君は、
律儀だね﹂
と笑っ
た。
﹁
でも、
どうして、
マキなの?
﹂
﹁
今、
思いついた名前がそれしかなかっ
たから﹂
そんなに可笑しいことだろうか
。
裕子さんは、
うつむいたまま、
しばらくの間
、
肩を震わせて笑っ
た。
しまいにはハンカチを目元にあてはじめた
。
ぱ
っ
と弾けて、
一、
二、
三・
・
・
ドン!
僕は
、
その発作のような笑いが治まるのをじっ
と待っ
た。
※
僕と大沢マキとは
、
小学校が一緒だっ
た。
6年生の時には同じクラスで
、
林間学校に出かけた。
黒こげにな
っ
たご飯に、
灰混じりのカレ|
をかけて、
一緒に食べたこともある
。
でも
、
だからといっ
て、
格別、
仲良しというわけじゃ
ない。
実際、
中学校に入
っ
てからというもの、
個人的に、
親しい口をきいたことはなか
っ
た。
中学校三年生の春
。
ある日の放課後のことだ。
僕は
、
偶然、
下駄箱で大沢マキと一緒になっ
た。
﹁
一緒に帰る?
﹂
今にして思えば
、
何でそんなことを言っ
たのか、
よく分からない。
社交辞令
っ
て奴だろうか。
裕子さん曰く、
僕はとても﹁
律儀﹂
な性格なのだ
。
大沢マキは
、
嬉しそうに僕の後をついてきた。
僕らの通う中学校は
、
私立の中学校で、
地元から少し離れた場所にある
。
学校から駅まで歩いて、
電車に乗っ
て、
3駅揺られて、
駅を降りて
、
商店街を抜けて・
・
・
もうちょ
っ
としたらバイバイ、
というところで大沢マキは突然
、
立ち止まっ
て泣き始めた。
ちょ
うど、
電柱の下で女の子がそうしているように
。
何が起こ
っ
たのか、
よく分からなかっ
た。
何かまずいことを言
っ
たか考えてみたけど、
よく分からなかっ
た。
そもそも僕は
、
その間、
ほとんど口を聞いていなかっ
たのだ。