第7のサヨナラ
夜のヴ
ァ
|
ジンロ|
ドその2
そういえば
、
彼も、
私の家に来る時だけ、
指輪を外していた。
どうして
、
指輪を外すのか。
詳しく聞いた覚えはない
。
コトリ。
儀式のように外される指輪には、
質問を寄せ付けない重さが感じられた
。
今にして思えば
、
連れ合いを亡くした男性が、
女性を家に連れ込んだ時
、
昔の奥さんの遺影を伏せるのに、
感覚は似ているのかもしれない
。
き
っ
と、
彼にも罪悪感があっ
たのだろう。
奥さんに対しても
。
そして、
私に対しても。
彼は
、
同じ会社の10コ上の先輩だっ
た。
すでに結婚して
、
3歳になる子供もいた。
私は
、
あの頃、
行く宛てのない、
希望のない不倫をしていた。
※
﹁
ナオも行こうよ|
二次会﹂
レイコが言う
。
会場には
、
高校時代に好きだっ
た歌が流れていた。
何と言う題名かは忘れてしま
っ
た。
ミキの好きな、
ミスタ|
チルドレンの歌だ
。
レイコの手からは
、
いつの間にか指輪が外されている。
私の視線の先に気づくと
、
レイコはひらひらと手を振っ
て﹁
便利でし
ょ
﹂
と笑い、
そのために一回り大きなサイズを買っ
たのだとうそぶいた
。
レイコは
、
高校時代から、
男の子には積極的だっ
た。
接する男によ
っ
て、
コロコロ態度を変える。
女子には嫌われていたが
、
男子には絶大な人気を誇っ
ていた。
今風に言えば
、
肉食女子というのだろうか。
とにかく、
たくましかっ
た。
高校を出た後は
、
一通り恋愛をし終えたような、
大人ぶっ
た態度を見せ
、
みんなが就活に躍起になっ
ている頃には、
結婚相手という優良物件探しに勤しんだ
。
﹁
恋愛と結婚は別だ﹂
と言い切っ
てはばからなか
っ
た。
16も年の離れた金持ちのおじさんと帝国ホテルで盛大な式を挙げたのは
、
大学を出てすぐのことだ。
周囲は眉を潜めたが
、
本人は玉の輿だと喜んでいた。
﹁
やめとくよ﹂
私は答える
。
﹁
そんな固く考えることないっ
て﹂
レイコが食い下がる
。
壇上では
、
マミが、
友人代表のスピ|
チをしていた。
舌
っ
たらずの甘えた声が、
少し震えている。
そのうち、
泣き出すだろう
。
さっ
きまでは、
隣の席でケラケラ笑っ
ていたくせに。
そういう子なのだ
。
マミも、
レイコも。
※
﹃
指輪、
外さないでいいよ﹄
わざわざ外すの面倒臭いでし
ょ
。
指輪。
なくなっ
ちゃ
うかもしれないし
。
だから、
つけたままでもいいよ。
私、
全然気にならないから。
付き合いはじめて
、
3年が経とうとした頃だっ
た。
何の気なしに口にした言葉
。
それが私と彼にとっ
て、
何を意味するのか
。
何をもたらすことになるのか。
よく分からなかっ
た。
そもそも
、
自分がどうしたいのかも、
私はよく分かっ
ていなかっ
た。
彼は
、
ひどく戸惑っ
た様子だっ
たけれど、
私の言うとおりにしてくれた
。
そういう人なのだ
。
一人の人を深く傷つけることよりも、
みんなで少しずつ傷つくことを選ぶ
。
そういう人なのだ。
抱き合
っ
ている時に、
キラリと光る結婚指輪が見えると、
自分がやっ
ていることに、
心がくすんだ。
なぜ
。
あんなことを言っ
たのだろう。
﹁
ナオ、
飲みすぎだっ
て﹂
レイコが言う
。
もしかしたら
、
そのくすみが、
放っ
ておけないものになることを望んでいたのかもしれないと私は思う
。
※