第6のサヨナラ
もしブル
|
スハ|
プが吹けたら、
いい歌を奏でるだろう
。
その4
あの時
、
僕らは﹁
ぶっ
ちぎられアルト﹂
に乗っ
て、
確かに
、
どこかへ向かっ
ていた。
どこへ向か
っ
ていたのか。
思い出すことはできない。
途中
、
雨が降っ
てきたので、
ワイパ|
のスイッ
チを入れようとした友人が操作を誤
っ
て、
ウォ
ッ
シャ
|
液を飛び出させ、
それが叩きつけるような雨に泡だ
っ
て前が見えなくなっ
て、
死ぬかと思っ
たこと。
パワステのきかないハンドルのせいで
、
曲がるのにもずいぶんと力がい
っ
たこと。
それから、
窓を開けるためには、
一々
、
取っ
手を回さなければならず
、
それを繰り返していたら、
途中で取っ
手がボキっ
と折れて、
窓が閉まらなくなっ
てしまい、
雨風をしのぐために、
新聞紙をつぎはぎしてやりくりしたこと
。
思い出すのは
、
どれも道中の楽しかっ
た思い出ばかりだ。
どこへ向か
っ
ていたのは、
もう二度と思いだせないかもしれない
。
けれど
、
それでいいじゃ
ないかという気もした。
本当は
、
目的地など、
どこにもないのかもしれないのだ。
※
磯山さんに起きる気配はない
。
長年連れ添
っ
た妻と子供に愛想をつかされ、
別居を強いられた挙げ句
、
健康診断にひっ
かっ
かっ
て、
医師の勧めで﹁
辞めないと命の保証はできない
﹂
と言われた人とは思えないくらい、
幸せそうな、
不細工な寝顔だ
っ
た。
10年前も
、
20年前も、
この人はこんな風にして
、
寝ていたのだろうなと思っ
た。
そして
、
10年後も、
20年後も、
この人はこんな風にして
、
寝ているのだろうなと思っ
た。
僕はタバコを1本
、
根元まで吸いつくすと、
トイレに向かい、
バケツに水を注ぎいれて戻
っ
て来ると、
寝ていた磯山さんにバサっ
とぶっ
かけた。
﹁
あちょ
!
べ?
!
﹂
磯山さんが奇怪な叫び声をあげて
、
ムクリと起き上がる。
僕はそのハゲ頭をパシンと叩いた
。
傍らでは
、
若い連中が言葉もなく、
僕らを見ていた。
頭のおかしな人を見るような目つきだ
っ
た。
できるなら
、
彼らに教えてやりたかっ
た。
子供と大人を隔てる
、
そんな便利な境界線なんかありえないっ
てことを
。
あるとしたら、
それは、
どこまでも今と地続きの未来、
延長線だけなのだということを
。
僕は磯山さんから預か
っ
ていた財布を取り出すと、
そこから1万円を数枚抜いて
、
﹁
ご迷惑をおかけしました﹂
と店員に渡した。
メガネをかけ
、
﹁
帰りますよ﹂
と言っ
て磯山さんを肩に担ぐ。
店員が何か言いかけたが
、
構うことなく足早に店を後にした。
※
﹁
マナベ!
﹂
店を出たところで磯山さんが叫ぶ
。
﹁
マナベ!
学べ!
﹂
﹁
マナベ!
遊べ!
﹂
ホテルがどこにあるのか
、
よく分からなかっ
た。
でも
、
僕らは立ち止まらずに歩いた。
そのうち磯山さんが
﹁
マナベ!
小便!
﹂
と言い出した。
コンビニも何も見当たらないので
、
僕らは路地裏で用を足した。
僕と磯山さんの連れシ
ョ
ン。
あの頃の自分が見たら
、
どう思うか、
考えた。
笑うだろうか
。
嘆くだろうか。
どうしようもないと言いつつも
、
案外
、
変わっ
てねえっ
て笑っ
てくれる。
そんな気がした。
二人の小便から立ち上る湯気が
、
混ざっ
て宙に消えていっ
た。
もし
、
僕がブル|
スハ|
プを吹くことができたとしたら、
きっ
と、
いい歌を奏でるだろう
。
了