第6のサヨナラ
もしブル
|
スハ|
プが吹けたら、
いい歌を奏でるだろう
。
その3
あの時
、
僕らは、
一体、
どこへ向かっ
ていたのだろう。
卒業を間近に控えたある夜
。
僕らは
﹁
ぶっ
ちぎられアルト﹂
というステッ
カ|
の貼られた、
エンジンから絶えずカランカランと小石が混じ
っ
たような音のする、
どうしようもないポンコツに乗
っ
て、
真夜中の道路を、
猛スピ|
ドで走
っ
た。
どこに行こうとしていたのか
。
全く思い出せなかっ
た。
でも
、
僕らは、
どこかを目指していたはずだっ
た。
どうでもいいことだと思いつつも
、
それは、
とても大切なことのように思えた
。
今、
思い出せなければ一生思い出せないような気もした
。
※
僕は携帯電話を取りだすと
、
あの当時、
最も仲の良かっ
た友人に電話をかけた
。
つつつつ
。
電話をかけるのは久しぶりのことで
、
心臓が高鳴っ
た。
つつつつ
。
前に話したのはいつのことだろう
。
思い出せなかっ
た。
つつつつ
。
何故
、
連絡をとらなくなっ
たんだろう。
思い出せなかっ
た。
つつつつ
。
出ろ
、
出ろ。
電話に出てさえくれれば、
何もかも帳消しにできるような気がした
。
全てを許してあげられるような気がした。
でも
、
10コ|
ル鳴らしても、
20コ|
ル鳴らしても、
友達は出なか
っ
た。
そのうち留守番電話サ|
ビスに切り替わっ
て、
僕は電話を切
っ
た。
時刻は2時近か
っ
た。
僕は
、
電話をかけたことを後悔した。
色んな意味で後悔した。
※
キ
ャ
|
という甲高い悲鳴が聞こえた。
いつの間にか
、
グルっ
と商店街を一周して店の近くまで戻
っ
てきてしまっ
ていたらしい。
足下には
、
さきほど僕が倒した自転車が転がっ
ていた。
キ
ャ
|
という声が、
再び店の中から聞こえてくる。
僕は慌てて店に戻
っ
た。
もしかしたら
、
僕がいない間に、
磯山さんが若い連中や店長と、
大立ち回りを演じているのではないか
。
そんな気がしたのだ
。
磯山さんは
、
普段は、
人とまともに目を合わせることもできず、
よくそれで営業なんか務まるものだとこ
っ
ちが心配になるくらい小心な人だけど
、
ひとたび、
酒が入ると人が変わる。
噂でしか聞いたことはないけれど
、
接待の席上
、
得意先に絡むのは序の口、
僕ぐらいの年の頃には
、
上司に飛び蹴りをくらわして、
クビになりかけたという逸話もあれば
、
縦列駐車していたベンツの上を
、
跳んで歩いたという噂もあ
っ
た。
※
店の中には
、
何の変化もなかっ
た。
磯山さんは
、
僕が出て行っ
た時と、
寸分変わらぬ姿勢で寝ていた。
変わ
っ
たといえば、
大きないびきをかいているぐらいだっ
た。
若い連中は
、
僕らに背中を向けてテレビを見ていた。
ち
ょ
うど、
この界隈をロケした深夜番組がやっ
ているらしく、
見知
っ
た場所やお店が登場すると、
若い女が興奮して、
キ
ャ
|
と叫ぶのだ。
磯山さんには何の関係もなか
っ
た。
もしかしたら
、
若い連中にでんぐり返しを決め込んで、
盛りのついた犬のように
、
女の子の体にむしゃ
ぶりついて﹁
何かしてえ!
H
がしてえ
!
﹂
なんて叫んでいるのではないか。
壊れかけた障子を﹁
一生壊れてろ
﹂
と言っ
て、
徹底的に破壊しつくしているのではないか。
そう思
っ
ていただけに、
安心する半面、
が
っ
かりしている自分がいて、
僕は思わず笑
っ
てしまっ
た。
若い連中が
、
びっ
くりしたようにこっ
ちを見る。
磯山さんが
、
ゴゴゴゴと大きないびきを立てる。
※