第6のサヨナラ
もしブル
スハ
プが吹けたら
いい歌を奏でるだろう
その2
あの頃の自分が
今の自分を見たら
どう思うのだろう
熱燗を3本飲み終えたところで
ふと考えた
時刻は1時を回
ており
気づけば
磯山さんは壁にもたれかかり
いびきをかいて眠りこけていた
若い連中も
からかうのに飽きた
様子で
大人しくしていた
穴の空いた障子から
冷たい風が吹き込んでいた
店長が到着する様子は一向になか
やることがないので
僕はメガネのレンズを拭
大して汚れてはいなか
たけれど
息吹きかけて
時間をかけて
丁寧に拭
あの頃
キセルが見つか
東武東上線の常盤台から上板橋まで
線路を駅員と追いかけ
こして走
た奴がいた
筆者の言いたい事を五百字程度でまとめよ
という現代国語の設
問に対し
カオス
と一言だけ答えた奴がいた
卒業証書を片手に
卒業式の花道を欽ち
ん走りで退場した奴がい
若い連中は決して信じようとしないだろうけれど
そういう無邪気な時代が
僕らにもあ
たのだ
あの頃
30歳は
とてつもなく遠くにあ
夢や希望が一つの光だとするならば
その光さえも遠く及ばない
何万光年も隔てた宇宙のように
遠くに霞んで見えた
その行く手には
一本の線のようなものが引かれていて
何となくではあるけれど
それを超えたら
大人
て奴になるのだと思
ていた
大人になれば無茶はできなくなるけれど
少なくとも今みたいに
つまらないことで悩んだり
ふさぎこんだり
訳の分からない衝動
に駆られて
誰かを傷つけたり
怒鳴りつけたり
そうい
うわずらわしさからも解放されるのだと思
ていた
ただ
それなりの会社で
それなりの仕事をして
それなりの収入を得て
それなりの家庭を築いて
それなりに幸せな生活を送
ているんだろう
て信じていた
ハハハハ
若い連中が大声で笑いたて
それにつられて
磯山さんがビクンと
激しく体を震わせる
起きるかなと思
たけど
起きなか
外の空気が吸いたくな
僕は席を立
店の外に出ると
火照
た体に
風が冷たく吹きつけた
近くにある大学病院の名前が
そのまま駅名にな
た寂れた田舎町
周囲の商店街のシ
は全て下りており
通りには誰の姿もな
店の前には
おそらく若い連中が乗り付けてきたであろう
無数の自転車が重なり合
て停められている
僕はそのうちの一台蹴
飛ばすと
あてもなく歩き出した
立ち止ま
ているのが嫌だ
どこか遠くで
ギタ
とブル
スハ
プの音色が聞こえた
夢破れ
たストリ
トミ
ジシ
ンの悲しき叫び
メガネをかけていないせいか
それとも
飲みなれない日本酒を飲
んだせいか
足下がおぼつかなか
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