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第6のサヨナラ
もしブル
⼁
スハ⼁
プが吹けたら、
いい歌を奏でるだろう
。
その2
あの頃の自分が
、
今の自分を見たら、
どう思うのだろう。
熱燗を3本飲み終えたところで
、
ふと考えた。
時刻は1時を回
っ
ており、
気づけば、
磯山さんは壁にもたれかかり、
いびきをかいて眠りこけていた
。
若い連中も、
からかうのに飽きた様子で
、
大人しくしていた。
穴の空いた障子から
、
冷たい風が吹き込んでいた。
店長が到着する様子は一向になか
っ
た。
やることがないので
、
僕はメガネのレンズを拭っ
た。
大して汚れてはいなか
っ
たけれど、
息吹きかけて
、
時間をかけて、
丁寧に拭っ
た。
あの頃
、
キセルが見つかっ
て、
東武東上線の常盤台から上板橋まで、
線路を駅員と追いかけ
っ
こして走っ
た奴がいた。
﹁
筆者の言いたい事を五百字程度でまとめよ﹂
という現代国語の設問に対し
﹁
カオス﹂
と一言だけ答えた奴がいた。
卒業証書を片手に
、
卒業式の花道を欽ちゃ
ん走りで退場した奴がいた
。
若い連中は決して信じようとしないだろうけれど
、
そういう無邪気な時代が
、
僕らにもあっ
たのだ。
※
あの頃
、
30歳は、
とてつもなく遠くにあっ
た。
夢や希望が一つの光だとするならば
、
その光さえも遠く及ばない
、
何万光年も隔てた宇宙のように
、
遠くに霞んで見えた。
その行く手には
、
一本の線のようなものが引かれていて、
何となくではあるけれど
、
それを超えたら、
大人
っ
て奴になるのだと思っ
ていた。
大人になれば無茶はできなくなるけれど
、
少なくとも今みたいに、
つまらないことで悩んだり
、
ふさぎこんだり、
訳の分からない衝動に駆られて
、
誰かを傷つけたり、
怒鳴りつけたり、
きっ
と、
そういうわずらわしさからも解放されるのだと思
っ
ていた。
ただ
、
それなりの会社で、
それなりの仕事をして、
それなりの収入を得て
、
それなりの家庭を築いて、
それなりに幸せな生活を送
っ
ているんだろうっ
て信じていた。
※
キ
ャ
ハハハハ。
若い連中が大声で笑いたて
、
それにつられて、
磯山さんがビクンと激しく体を震わせる
。
起きるかなと思っ
たけど、
起きなかっ
た。
外の空気が吸いたくな
っ
て、
僕は席を立っ
た。
店の外に出ると
、
火照っ
た体に、
風が冷たく吹きつけた。
近くにある大学病院の名前が
、
そのまま駅名になっ
た寂れた田舎町だ
っ
た。
周囲の商店街のシ
ャ
ッ
タ⼁
は全て下りており、
通りには誰の姿もなか
っ
た。
店の前には、
おそらく若い連中が乗り付けてきたであろう無数の自転車が重なり合
っ
て停められている。
僕はそのうちの一台蹴
っ
飛ばすと、
あてもなく歩き出した。
立ち止ま
っ
ているのが嫌だっ
た。
どこか遠くで
、
ギタ⼁
とブル⼁
スハ⼁
プの音色が聞こえた。
夢破れたストリ
⼁
トミュ
⼁
ジシャ
ンの悲しき叫び。
メガネをかけていないせいか
、
それとも、
飲みなれない日本酒を飲んだせいか
、
足下がおぼつかなかっ
た。
※