第5のサヨナラ
おばあち
ゃ
んが末期がんになりました。
その1
みんな
、
薄情者だ。
明美もリカも
、
柴田も小林も。
﹁
絶対、
忘れないからね﹂
っ
て言っ
ていたくせに。
私のことを気にかけてくれたのは最初だけで
、
引
っ
越して1ヶ
月も経つ頃には、
ほとんどメ|
ルもなくなっ
た。
T
w
i
t
t
e
r
のつぶやきも、
新しいクラスのこととか、
新しい先生のこととか
、
私の知らない言葉で埋め尽くされるようにな
っ
た。
※
だから
、
引越しなんて嫌だっ
たんだ。
私は
、
3ヶ
月前まで、
品川の都立高校に通っ
ていた。
パパの実家に引
っ
越してきたのには、
2つ理由がある。
1つは
、
パパの仕事が上手くいかなくなり、
このまま東京で暮らしていけなくな
っ
たこと。
もう1つは
、
おばあちゃ
んが、
病気になっ
て介護が必要になっ
たこと
。
私は中学校3年生にな
っ
たばかりで、
進路のこととか、
将来のこととか
、
ぼんやりだけど
、
考え始めていた頃だっ
た。
今更
、
引っ
越すなんてありえない。
自殺行為もいいとこだっ
て、
初めは頑なに抵抗したけれど
、
無駄だっ
た。
※
引
っ
越した先は、
福井県にある、
とても退屈な町だっ
た。
ここで18歳まで生まれ育
っ
たというパパは、
﹁
小さい頃に、
よくここで遊んでいたんだよ﹂
引
っ
越してきた当初、
そう言っ
て、
私を思い出の場所に案内してくれた
。
海を見て
、
うわあ。
すごい。
すごい。
すごい。
山を見て
、
うわあ。
すごい。
すごい。
すごい。
最初の3日で
、
私は、
うんざりしてしまっ
た。
ち
ょ
っ
とス|
パ|
に買い物に行くにも、
車で10分。
洋服を買おうとしたら
、
1時間に1本の電車に揺られて30分。
袖が鼻水でテカテカした学生服を着た
、
ヘルメッ
ト姿の中学生が私を見て
、
ニキビの膿んだ頬をゆがめて笑うのを見て、
私はすぐに、
この場所が嫌いにな
っ
た。
※
転入先の学校で
、
私はみんなからイロモノのように扱われた。
こんな時期に
、
東京からの転入生が、
前の学校の制服を着用して現れたのだ
。
無理はない
。
私だっ
て、
同じ立場なら﹁
なんだこいつ﹂
と思うだろう
。
制服に関しては
、
ママからは、
あと1年だけだし、
うちには買い換える余裕もないから
﹁
何とか我慢して﹂
っ
て言われていた
。
分からないでもないけれど
、
それを言うなら、
何故あと1年
、
引っ
越すのを我慢してくれなかっ
たのっ
て感じだ。
私はまるで
、
サバンナに放り出された、
チワワの気分だっ
た。
※
パパは
﹁
子供同士ならすぐに仲良くなれるよ﹂
っ
て大して気にもとめてくれなか
っ
たし、
ママも﹁
こっ
ちの子供はあっ
ちと違っ
て、
ゆっ
たりした子が多いから大丈夫よ﹂
なんてお気楽なもんだっ
たけれど
、
そもそも、
私達はパパが考えるほど子供ではないし、
たとえ、
ママが思うように
、
﹁
こっ
ち﹂
だの﹁
あっ
ち﹂
だの区別があっ
たとしても
、
だからといっ
て、
何かを大目に見てくれるゆとりなど、
あるはずがない
。
私達は20歳でもなく
、
10歳でもなく、
15歳だっ
た。
そのうち
、
私の家が、
経済的に、
にっ
ちもさっ
ちもいかなくなっ
て、
やむなく東京を追われたことが
、
どこからともなくリ|
クされ、
学校での私の立場はますます複雑なものにな
っ
た。
イジメの対象にな
っ
ていないことの方が、
むしろ奇跡的だ。
私は
、
息を殺した。
すべての人と距離をおいた。
ただ時が過ぎ去るのを待つほかなか
っ
た。
※