
第4のサヨナラ
君の成長が
、
嬉しくもあり、
寂しくもあ
っ
た。
その4
※
どうせ
、
いつしか忘れ去られてしまうなら・
・
・
。
壁にもたれかか
っ
て、
背中を向ける君の後姿を見ていると、
卑怯と分か
っ
ていても、
い
っ
そ、
本当に死んでしまっ
た方がいいのでは、
そんな風に思う。
ガタン
。
電車が突然動きはじめる。
バランスを失
っ
た君を、
私は抱きとめた。
それは小さく
、
細い手だっ
た。
﹁
大丈夫かなあ﹂
君は
、
照れ臭さを押し隠すようにふと呟く。
﹁
何が?
﹂
私は聞き返す
。
﹁
電車にぶつかっ
た人﹂
その言葉に
、
私は思わず、
笑っ
てしまう。
君は少しむ
っ
とした顔をする。
私は慌てて謝る。
﹁
お母さん、
待ちくたびれたから、
喫茶店にいるっ
て﹂
君は
、
則子からきたメ|
ルを、
私に見せてくれる。
その末文には
、
﹃
風邪引かないように、
注意して下さい﹄
という、
私宛のメ
ッ
セ|
ジも記されてあっ
た。
私はそれを見て
、
とても切なくなる。
則子は
、
別れた後、
私との連絡手段をP
C
のメ|
ルに限定した。
携帯は緊急の時だけと言
っ
て、
メ|
ルアドレスは教えてもくれなかっ
た。
あくまでも君を介して
、
何かを伝えようとする、
その徹底ぶりに
、
当時の母の頑迷さが重なっ
た。
※
電車はゆ
っ
くりと、
だが、
着実に走り出す。
﹁
何で別れたの?
﹂
何年後になるか分からないが
、
いつか、
私に尋ねるだろう。
その時
、
私は、
なんと答えるだろう。
﹁
あなたは、
父親っ
てものがどんなものか、
ぜんぜん分かっ
ていない
!
﹂
喧嘩になると
、
則子はいつもそうやっ
て私を責めた。
私には
、
どうしても、
その言葉が許せなかっ
た。
でも、
それとは反対に
、
﹁
父親を知らないのだから、
しょ
うがないじゃ
ないか﹂
則子には
、
その一言で片付けようとする私が、
許せなかっ
た。
互いに
、
傷つけあう生活に耐えられなかっ
た。
私はいつか君に
、
ありのままを語ることができるだろうか。
電車はどんどんスピ
|
ドを上げていく。
君はどんどん大きくな
っ
ていく。
※
停まる駅ごとに
、
続々
と新たな乗客が乗り込んでくる。
車内は息もできないほどに人でむせかえ
っ
た。
私は君を抱き上げると
、
肩の高さまでかかえあげた。
君は嫌が
っ
て体をよじっ
たが、
私は離さなかっ
た。
いいんだ
。
私は言っ
た。
いいんだ。
そういえば
、
一緒に暮らしていた頃。
君がワガママを言うのは
、
いつも決まっ
て、
私と則子が気まずくなっ
た時だっ
た。
その時だけは
、
明日が来るのが耐えられないとでも言わんばかりに、
聞き分けのないことを言
っ
ては、
ゴジラのように、
そこらじ
ゅ
うのものをひっ
くり返し、
暴れまわっ
た。
※
なぜ
、
今更そんなことばかり、
思い出すのだろう。
﹁
パパ?
?
﹂
﹁
何でもない﹂
私は
、
君をぎゅ
っ
と抱き寄せた。
君には
、
たくさん不自由な思いをさせてきた。
おそらく
、
これからも一杯一杯、
させることになるだろう。
ワガママを
、
言いたくなっ
たら、
いつでも言えばいい。
サヨナラと
、
言いたくなっ
たら、
いつでも言えばいい。
そのためにも
、
私は、
君と会い続けよう。
つまらない責任感だけが
、
唯一、
愛情を示す術になりうることを、
君もいつか知る時が来るだろう
。
私はそれを心待ちにしている。
﹁
ホウケイっ
て遺伝する?
﹂
君が言う
。
私は笑っ
て、
首を振る。
私と君を乗せて
、
電車は走っ
てゆく。
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