第4のサヨナラ
君の成長が
嬉しくもあり
寂しくもあ
その3
小学校3年生
私が
今の君と同い年だ
た頃の話だ
ある寒い冬の朝
私は母に手を引かれ
専門の病院に連れて行かれ
そして
包茎手術を受けさせられた
皮を切
縫い合わせるんだ
私が身振り手振りを交えて説明すると
君は首をすくめてみせた
包茎など
一般的には
珍しいものではない
ておけばいずれ治るものであり
また
治らなか
たとしても
特に生きていく上で差し障りのないものであることぐらい
誰かに
聞けば
すぐに分か
たはずだ
だが
当時の母には
それさえ
相談できる相手がいなか
知識を授けてくれるはずの父はすでにいなか
髪を振り乱し
女手一つで
私を育て上げてくれた母は
父と異なる形をした私の性器を見て
それをある種の病気
もしくは奇形の一種と考えたのだ
痛か
君は
顔をしかめて尋ねる
少しイタズラが過ぎたかもしれない
私は首を振
正直いえば
手術のことはあまり憶えていなか
色濃く覚えているのは
病院の蛍光灯の電気が切れ掛か
ていたこと
リノリウムの床が一部だけ剥げ落ちていたこと
それだけだ
むしろ
その傷痕は
別の場所に深く残り続けた
このことは絶対に黙
ているのよ
母は
私に固く口止めをした
私は
その言いつけに従
ひた隠しにした
中学校に入り
包茎が何たるかを知るようにな
てからは
なお秘
密にした
今とな
ては
とんだお笑い草だが
包茎を奇形と考えなければならないほどに追い込まれていた
当時の母のことを考えると
無性にやりきれなくな
死んだと思
てくれた方がいい
正直言えば
不謹慎にも
君に対して
何度かそう思
たことがあ
父のいない入学式
父のいない授業参観
父のいない卒業式
私の人生には
最初から
父は存在しなか
寂しくなか
たといえば嘘になる
でも
他にも
父のいない子供
はいた
そんな時
支えにな
たのは
会いたくても
会えない
すでに父はこの世にいないという
動かしがたい事実だ
離婚ではなく
やむをえない別離だと
私は自分を慰めることがで
きた
いつか君は
私と会うのを
拒否するようになるだろう
それが3年先なのか
それとも
来月なのかは分からないが
いつまでもこの関係が続かないことぐらい
私にも分か
ている
私はずるい人間だから
その保証のために
嫌にな
たら
いつでも言
ていいのだから
と君に
何度か言
たことがあるよね
そのたびに
君はそんなことはないと答え
パパは心配性だと笑
人がいないところでは
私をまだパパと呼んでくれているが
君はそのうち
パパ
どころか
私をどう呼べばいいか
悩むよう
になる
そして私と会うよりも
と価値のある何かを見つけるだろう
それは友達かもしれない
好きな人かもしれない
クラブ活動かも
しれない
もしかしたら
新しいパパかもしれない
とも
些細なこと
たとえば
学校の宿題や
塾の勉強かもしれない
でも
その時がきたら
君は易
私を忘れるだろう
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