第4のサヨナラ
君の成長が
、
嬉しくもあり、
寂しくもあ
っ
た。
その2
※
君は
、
いつから人前でパパとかママとか言うのをやめたのだろう。
君は
、
いつから電車に身投げした人の死後まで懸念するようになっ
たのだろう
。
時折
、
ふと思うことがあるのだ。
本当のところ
、
君は私が想像している以上に、
ず
っ
とずっ
と早く、
大人になっ
ているのではないかと。
君は
、
私の思惑など一から十まで承知の上で、
ただ私を喜ばせるために
、
行きたくもないような場所へ連れていけと懇願し
、
欲しくもないようなモノをねだり
、
あえて、
無邪気な自分を装
っ
ているのではないだろうかと。
電車は停ま
っ
たまま、
動く気配がない。
い
っ
そ、
このまま電車が停まっ
たままならいいのに。
そんなことをふと思う
。
※
君はリ
ュ
ッ
クからデジカメを取りだすと、
今日撮っ
たばかりの写真を眺め始める
。
﹁
今日も一杯撮っ
たね﹂
君は
、
一枚一枚プレビュ
|
を確認して、
満足げに呟く。
お気に入りだと言
っ
て見せてくれた2ショ
ッ
ト写真。
君も
、
私も、
とびきりの笑顔で写っ
ている。
こうや
っ
て君と二人で顔を並べて眺めていると、
はるか昔のことのように思えてくるから不思議だ
。
ママに見せるという理由で
、
君がはじめたことは、
いつの頃からか
、
私と会う時の、
君の日課になっ
た。
撮りためた写真は
、
どのくらいの数になるのだろう。
百枚
、
二百枚ではきかない、
膨大な量の記録達。
でも
、
そのうちの一体、
どれだけが、
君の記憶に残るのだろう。
君との思い出の写真が
、
増えれば増えるほど、
私は言い知れぬ不安に駆られる
。
※
君にも話したことがあるかもしれないが
、
私の父は
、
私が小学校に上がる前に亡くなっ
た。
事故だっ
た。
私には
、
父と過ごした記憶が、
ほとんどない。
アルバムで確認する限りは
、
父は私を連れて、
動物園に出かけたり、
山を登りに行
っ
たり、
様々
な場所にでかけていた。
ずいぶん子煩悩な父だ
っ
たように思える。
でも
、
実際のところ、
父との思い出のうちで、
写真の力を借りずに覚えていることは
、
ほとんどない。
顔も姿も
、
後からこしらえた、
まがいものの記憶ばかりだ。
※
﹁
包茎っ
て知っ
てるか?
﹂
私は言
っ
た。
﹁
ホウケイ?
﹂
君はデジカメから顔を上げると
、
首を振っ
た。
当然のことだ。
何でもいい
。
君と話をしていたかっ
た。
前の席に座
っ
ていた、
とっ
くりのセ|
タ|
を着たおばさんが、
なんてことを言い出すんだと
、
顔をしかめる。
私はそれには構わず
、
体を屈め、
君の股間をトントンと軽く叩くと、
﹁
父さん、
手術を受けたことがあるんだ﹂
と声を潜めて言っ
た。
﹁
何かの病気?
﹂
君は照れ笑いを浮かべる
。
﹁
病気じゃ
ない﹂
私は言う
。
﹁
でも、
お父さんのお母さんは、
それを病気だと思っ
たんだ﹂
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