第4のサヨナラ
君の成長が
、
嬉しくもあり、
寂しくもあ
っ
た。
その1
突然
、
動きを停めた電車の中。
君は文句ひとつ言わずに立
っ
ていた。
苛立ちが充満した車内では
、
君よりはるかに年上の子供が、
疲れただの
、
おんぶしてだの、
だっ
こしてだの、
せがんでいた。
なのに君は
、
壁に手を添えて、
ただじっ
と黙っ
て立っ
ていた。
それだけでも立派なものだ
、
と私は思う。
ただ
、
甘えることをしないその姿は、
私の目に、
痛々
しくも映っ
た。
※
﹁
大丈夫か﹂
私は尋ねる
。
君は頷き
、
そして壁にもたれかかっ
た。
﹁
事故っ
て何なのかな?
﹂
君は言う
。
私は少し考えてから
﹁
突発的なトラブル﹂
と答えた。
でも 塾に行くとき
、
君は﹁
人身事故じゃ
ない?
、
よく起こるもん﹂
何でもなか
っ
たことのように言う。
﹁
そうだな。
しばらくは動かないかもしれないな﹂
姿は見えないが
、
相変わらず、
疲れただの、
おんぶしろだの騒ぎ立てる子供の声が聞こえてくる
。
君はチラっ
と目を向けると﹁
そんなんで怒っ
たりしちゃ
いけないんだっ
て、
お母さんも言っ
てた
﹂
そう言
っ
て、
もたれかかっ
た姿勢を少し正すと、
﹁
早くしろとか言っ
ちゃ
駄目だっ
て﹂
と続けた。
※
身につまされるような思いをしているのは
、
きっ
と私だけではないだろう
。
足を組んでいた青年は
、
足をほどいて、
座席に深く座り直した大音量で音楽を聴いていた若者も
、
心なしかボリュ
|
ムを下げたような気がする
。
目の前の席に座
っ
ていた、
とっ
くりセ|
タ|
を着たおばさんが、
いいお子さんねえ
。
という顔でにっ
こり微笑んで、
私は思わず目をそらした
。
﹁
お母さんにメ|
ルしておくね﹂
君はそうい
っ
て、
携帯をいじりはじめる。
君は最近
、
人前で、
パパとかママとか言うのをやめた。
そういえば
、
以前までは自分のことを﹁
ジュ
ン君﹂
と呼んでいたが、
いつの間にか
、
それもやめてしまっ
た。
﹁
1時間ぐらい遅れるっ
て言っ
ておけばいいかな﹂
私には
、
正直、
君のデキの良さが、
誇らしくもあり、
同時に、
後ろめたくもあ
っ
た。
※
君と離れて暮らすようにな
っ
て、
もう3年が経とうとしている。
そういえば
、
君は、
あの当時から、
とても物分かりのいい子供だっ
た
。
全く言葉を理解しない
、
怪獣でしかなかっ
た時代を除けば、
一緒に暮らした6年間
、
私は君にワガママらしいワガママを言われた記憶がない
。
もちろん
、
それは則子がいつも言っ
ていたように、
私が仕事に明け暮れ
、
ほとんど家に寄り付かず、
わがままを言いたくても
、
言えない環境だっ
たせいもあるかもしれない
君は
、
私のたまの休みの日にも、
遊びに行こうとか言うこともなく、
パジ
ャ
マ姿で寝転がる私のそばに座っ
て、
本を読んだり、
ゲ|
ムをしたり
、
大人しく過ごしていた
。
私と則子が別れることを告げた時でさえ
、
君はただ、
言葉なく、
頷いただけだ
っ
た。
泣くことも
、
叫ぶことも、
抗うこともしなかっ
た。
※
私は
、
君のその物分かりのよさが不満であり、
不憫だっ
た。
だから
、
別れた後、
則子にお願いして、
月に一度
、
こうやっ
て会う場を設けてもらうと、
それまでの罪滅ぼしの意味もこめて
、
目一杯
、
君のワガママを聞いてあげよう。
そう思っ
た。
君は当初こそ
﹁
どこへ行きたい?
﹂
と尋ねても﹁
どこでもいい﹂
と遠慮がちに応えていたが、
徐々
に﹁
○
○
に行きたい﹂
とハッ
キリ、
自分の希望を口にするようになり、
﹁
何か欲しいものがあるか?
﹂
そう尋ねると
、
指折っ
て、
欲しいものリストを並べ立てるようになっ
た。
﹁
一緒にいる時よりも、
パパと過ごす時間が増えた﹂
そんなことを言
っ
て、
はしゃ
ぎたてる無邪気な様が、
私には
、
嬉しくて仕方なかっ
た。
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