第3のサヨナラ
振り返るには早すぎる
やり直すには遅すぎる
その3
世の中は
馬鹿ば
かりだ
会うたびに
ウジ君は愚痴をこぼすようにな
親のすねを齧りながら遊びほうけている大学生をこきおろし
ネクタイを巻いて汗水たらして働くサラリ
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マンをあざ笑い
リクル
|
トス
|
ツに身を包んだ私を滑稽だと責めた
私は
ウジ君の変わり様を嘆いた
どんな不遇があ
たにせよ
それを世の中や社会の責任に転換する
そんな人間に朽ち果ててしま
たことを悲しいと思
でも
今思い返せば
ウジ君自身は
何も変わ
ていなか
のだと思う
馬鹿ば
かりというのは
ウジ君の以前からの口癖でもあ
自分の中に価値を見出したいばかりに
少し人を見下したようなと
ころがあ
そのせいで世の中や社会と上手く折り合うことがで
きなくて
いつも
何かに追われるように
生き急いでいた
ウジ君はもともと
そういう人だ
 
変わ
たのは私の方だ
いい仕事に就きたい
いい会社に入りたい
ただそのために
大層な志望動機を捏造し
夢をこしらえた
御社が第一志望です
一体何度繰り返しただろう
だからこそ
彼が変わらないことが
私には苦痛に思えたのだ
私は
携帯電話を変えることで
ウジ君との関係性を絶
 
何を言
ても無駄だと思
たし
もし
そうすることが可能だ
としても
費やす労力が惜しか
私はそれどころではなか
たのだ
まだ
写真撮
てるの
私はおそるおそる言
てるよ
ウジ君が投げやりに答える
愚にもつかないものを撮
ている
撮り続けている
ウジ君の体から漂う不快な匂いの中に
あの頃
通いつめてい
た彼の部屋に漂
ていた現像液のす
ぱい匂いを思い出した
私は
それだけで
少しほ
として
ゴメンね
とまた言
何が
ウジ君は
いらだたしげにアクセルを踏み込んだ
それどころじ
なか
たの
私は言
それどころじ
ない
自分のことで精一杯で
それどころじ
なか
たの
勝手だな
そうなの
勝手なの
私は
タバコもらうよ
と言
|
ドの上のタバコ
を手に取
タバコ
吸うんだ
ウジ君が
不快そうな声で言
吸うのよ
私は火をつけた
ウジ君は
自分が捨てられた理由を
自分が大学を辞めて
済的に不安定な立場にな
たことや
身分を失
てしま
たことに
求めているようだ
たが
実際のところ
それは間違
ている
んなの過信しすぎだと私は思
人の一日一日は
一年は
一生は
自分が思
ているよりも
驚くほど早く過ぎてゆく
どれだけ立ち止
ていたくても
どれだけ後戻りしたいと願
ても
流れてゆく
そういえば
出会
た当初
ウジ君も私も
年齢を1つずつサバよんで
自分を19歳だと偽
ていた
事実が判明した時は
二人で笑い合
たものだが
あの頃
ウジ君は早く大人になりたいと願う少年で
私はまだ10代でいたいと願う小娘で
今にして思えば
結局のところ
どちらも子供だ
たということなのかもしれない
今はどうだろう
考えたが
分からなか
何かが変わ
てしま
たような気がしたが
振り返るには早すぎたし
やり直すには遅すぎた
母も
ベガも
苦しか
ただろうなと思
でも
私だ
本当は辛か
たし
苦しか
忘れたのは
忘れなければならないからであ
忘れたか
たか
らではない
きちんと別れを告げるべきなのだ
と私は思
初めて吸うタバコの煙はとても苦くて
思わずむせ返る
窓を開けると
風には磯の匂いが混じ
たていた
海についたら
んとシ
ウジ君に
サヨナラを言おうと思
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