第3のサヨナラ
振り返るには早すぎる
やり直すには遅すぎる
その1
この人のどこが好きだ
たんだろうと
かつて好きだ
たはずの人を見て
頭を悩ませるのは不幸なことだ
時の流れは残酷だよね
まさか
この年で実感するとは思わな
こうしてると
なんか
あの頃に戻
たみたいだね
ラジオから流れてくる曲が懐かしいと
ウジ君は目を細めて笑
あの頃
とい
ても
遠い昔のことではない
た2年前のこ
とだ
当時
私は20歳にな
たばかりで
ウジ君はた
た18歳だ
私達は
大学の文化祭で知り合
私は
タコ焼き屋の店番に立
ていた
|
クルの先輩たちから命
じられた
その日のノルマをこなすために
汗水ダラダラ流しなが
タコ焼きを焼いていた
そんなのやめて
見に行こうよ
声をかけてきたのは
ウジ君の方だ
ウジ君は
私に課せられたノルマの分だけ
自分が買
て食べ
てあげるから
だからその代わりに
海を見に行こうと言
人生は短いんだよ
タコ焼き焼いてる暇なんてないんだよ
それはかなり強引な誘い方だ
たが
タコ焼きをむし
むし
と食
べるその顔は
どこか憎み切れない笑顔だ
結局
私は
何もかもを放り出して
彼の誘いに乗
夏だ
当時
ウジ君には
夢があ
カメラマンになりたい
という青臭いけれど
でも
思い描く将
来があ
何度か
自分が撮
たものを照れくさそうに見せてくれたことがあ
その良し悪しは
私には判断できなか
たけれど
当時
大学3年生で就職活動を控えた私には
とても眩しく映
私には
特にやりたいことなどなか
来るべき就職活動が
やりたいことに向けられた活動ではなく
りたいことを見つけ出さなければいけない
そのための活動であり
おそらくというか
自分の将来が
そう大したものではな
いことぐらい
うすうす感づいていた
それだけに
そうや
て何事かに
たとえ無価値であ
たとしても
自分の限られた人生を賭けることができるだけでも
スゴイことだ
と思
ウジ君は
私を撮りたいと言い
私は喜んで被写体にな
コンク
|
ルに応募するために
一週間
伊豆の海へ
撮影旅行に出
かけたこともある
私はそこで心も体も裸にな
そう遠い昔ではないが
私はこの人のことが
確かに好きだ
とれえんだよ
前方の赤い車が遅いことに苛立
たシ
ウジ君が
舌打ちをして
アクセルを踏み込む
胸にのしかかられるような重圧があ
車は一気に加速して
い車を抜き去
平日の昼下がりとあ
高速道路はガラガラだ
車は
右車線にベタリと貼りついたまま
どんどこ走
空は雲ひとつなく
ため息が出るほど
青く澄み渡
ていた
あの頃は楽しか
たよな
ウジ君は
あの頃の
私の髪型が好きだ
たと言
それから
終電を逃して二人で歩いて帰
た夜のこととか
自転車で二人乗りして警察に捕まりそうにな
て逃げた日のことと
バイト代を貯めて初めてプレゼントした指輪が上手く指にはまらな
たこととか
水族館のオ
トセイの名前がシ
ウジという名前でび
くりしたこ
ととか
よくそんな憶えているね
悲しいくらい小さな思い出を総動員
して
時速120
で話し続けた
今日
お昼を食べ終わ
大学を出たところで
ウジ君と
タリ出くわした時は驚いた
風の噂では
信州の田舎に帰
実家を継いだということだ
あの頃よりも
少しふ
くらしたシ
ウジ君は
あの頃と同じように
ドライブに行こうと言
私はバイトがあるからと断ろうとしたけど
いいじ
んいいじ
引き下がらなか
ウジ君は
今は出版社でバイトをしており
作家さんの書いた
原稿を出版社に持
ていく
お使いみたいな仕事をしているのだが
今日に限
ては
作家さんが締め切り前に原稿をあげてくれたので
一日
自分の好きに過ごすことができる
だから
一緒に海を見に
行こう
そう言
私は
大学の単位を取り終え
念願だ
た内定も手に入れた後だ
ウジ君の自己中心的でワガママなところは
全然変わ
てない
訳分からないところでホ
として
私は
助手席に乗り込んだ
かり嫌われたと思
ていたけど
そんなことがなくて
むしろ
今でも好きだと言われたような気がして
舞い上が
ていたのかも
しれない
アホな女だ
とドライブするだけだ
たはずなのに
ウジ君は
イン
|
ンジから首都高に乗り
首都高から東名道へ
車をひた走
らせた
どこへ行くのと聞くと
海を見に行くと言
タリ出くわしたことを
ウジ君は偶然だと話したけれど
よくよく考えてみれば
偶然なんかじ
なか
たんだと思う
ウジ君の髪はごわごわしていて
もう何日もお風呂に入
てい
ない様子だ
衣服からもす
ぱい匂いが漂
ていた
出版社で
のバイトの話も多分
ウソだ
偶然を装
一体
どれだけの時間を
この車の中にとどま
過ごしたのだろう
宛てのない
その暗い努力を考えるとぞ
として
私は息を殺す
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