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第
1
2
最後のサヨナラサヨうであるナラば
、
いざゆかん。
その7
※
ライトのセ
ッ
ティ
ングが、
上手くいかなかっ
た。
それが
、
手の震えのせいだということに気づいて、
少し可笑しくな
っ
た。
死体を見るのは
、
これが初めてのことではなかっ
た。
20歳の時
、
孤独死した老人の遺骸を発見したことがある。
伊藤さんという70歳を超える
、
老人だっ
た。
当時
、
俺は出版社で倉庫整理のバイトをしており、
伊藤さんは
、
その同僚だっ
た。
どこかの建設会社を定年退職した後に働き始め
、
以来
、
十何年に渡り、
一日も欠かすことなく一度として遅刻することなく
、
働き続けた。
寡黙で真面目な人だ
っ
た。
そんな伊藤さんが
、
夏休み明けの3日間、
何の音沙汰もなく
、
仕事を欠勤した。
編集部の人に
﹁
様子を見て来い﹂
と言われて、
足立区のアパ
⼁
トに立ち寄っ
たら、
既に死んでいた。
死体を間近に拝んだわけではなか
っ
た。
でも
、
腐っ
た匂い、
無数のハエ・
・
・
死は部屋中に充満して
、
ドアの外まで漏れ出していた。
※
女の超えた手首を
、
ス⼁
ッ
と、
かみそりが引かれる。
切り開かれた一本の線から
、
う
っ
すらと赤い血がにじんでくる。
俺はシ
ャ
ッ
タ⼁
を切っ
た。
﹁
私さあ、
こんなぶくぶく太っ
ちゃ
っ
たけど、
昔は、
ここまでじゃ
なくて
、
結構、
可愛かっ
たんだよ。
でも、
信じていた彼に裏切られてさ
。
二股。
現場がばれたら開き直っ
てさ、
お前みたいなブタっ
て言われたの
。
ひどくない?
﹂
﹁
そうですね﹂
喋る相手に飢えているのだろう
。
女は聞いてもいないのに
、
ベラベラ喋っ
た。
﹁
それでストレスで太っ
ちゃ
っ
てさ。
就職もぜんぜんできなくて、
まあ
、
しょ
うがないんだけどね。
けど、
ふんだり蹴っ
たりっ
て感じよね
。
ホントついてなかっ
た﹂
女の話には脈絡がなか
っ
た。
子供の頃にいじめられた時の話をしていたかと思
っ
たら、
突然
、
昨日の夕ご飯に食べたお寿司の話になっ
た。
女はネギが嫌いだが
、
トロが大好きだと言っ
た。
お寿司を食べに行っ
た時は、
ネギトロをいつも頼むのだが、
本当はネギ抜きで注文したいらしい
。
でも、
そう言うと店の人に嫌な顔をされるような気がして
、
なかなか注文できない。
それでネギトロをそのまま注文して、
ネギだけを抜いて食べるのだが
、
﹁
自分の人生はそれと同じようなものだ
﹂
と言っ
た。
意味が分からなかっ
た。
分かるつもりもなかっ
た
。
﹁
そうですね﹂
と相槌を打っ
て、
俺はシャ
ッ
タ⼁
を切り続けた。