第
1
1
のサヨナラ愛の鉄の巣
。
その6
あのアパ
|
トでは、
ドライヤ|
をかけようとすると、
すぐにブレ|
カ
|
が落ちた。
夏になると、
よくセミが部屋の中に舞い込んできた。
母と一緒に
、
ネコの額ほどのベランダから、
階下に向かっ
て線香花火をした
。
階下の部屋に住む中年の夫婦は、
何かあるとすぐに派手な喧嘩をした
。
彼らが相手を口汚く罵りはじめると、
私は耳をふさいで
、
膝を抱え、
小さく丸くなっ
た。
夜は暗く、
終わりがなかっ
た。
冷蔵庫がぶおおおんと不穏な音を立てていた
。
中学生になっ
た時、
初めて私を好きだと言う男が現れた
。
ニキビ面で、
ジャ
|
ジ姿がよく似合う高校生だ
っ
た。
夜になると、
虫みたいな平べっ
たい改造車で派手な爆音を立てながら
、
私を迎えに来た。
近所の人が迷惑そうな顔をした
。
その苦痛に歪む顔が好きだっ
た。
だから、
好きでも何でもないくせに
、
好きな振りをした。
男がその気になるのが楽しかっ
た。
女友達はほとんどできなかっ
た。
いじめられることも多かっ
た
。
でも、
その倍くらい、
いじめることも多かっ
た。
発見は常に、
男が与えてくれた
。
高校生になっ
た時、
サラリ|
マンの男にハイヒ|
ルをプレゼントされた。
世界が一変した。
それで通りを闊歩した。
男の股間を踏みつけた
。
快感に顔を歪める男の顔が好きだっ
た。
﹁
高いところや、
離れた場所から見ると、
何となくキレイに見えるだけど
、
本当は薄汚れているの﹂
結局
、
自分もまた一羽のスズメの巣にすぎなかっ
たと思っ
た。
この眼下に広がる
、
おもち
ゃ
ような精巧な模型の中で、
さえずり
、
もがきながら、
枯れ枝を一生懸命
、
集めて回っ
ていたのだ。
私は
、
結局、
あのアパ|
トから、
一歩も外に出ていなかっ
たのかもしれない
。