第
1
1
のサヨナラ愛の鉄の巣
。
その3
﹁
嫌いだっ
た﹂
﹁
何が?
?
?
﹂
ツヨシが皮肉るように言う
。
﹁
みんな、
嫌いだっ
た﹂
遠くの夜空を
、
明滅する光点が飛んでいく。
東京を遊覧するヘリコプタ
|
か何かだろう。
そういえば
、
この部屋に住んで3年。
鳥を見かけたことはない。
スズメにと
っ
て、
巣作りするには、
あまりに高すぎるのかもしれない。
﹁
何で嫌いだっ
たの?
﹂
﹁
分からないわ。
ただ、
どっ
か行っ
てくれっ
て﹂
いい加減にしろ
。
そう思っ
ていた。
そんな小さな枝葉を集めて何ができるのだ
っ
て。
たとえできたとしても
、
吹けば跳ぶような巣の中で、
一体どんな幸せをかなえるのだと
。
﹁
あんまり幸せじゃ
なかっ
たんだね﹂
﹁
幸せじゃ
なかっ
た?
﹂
﹁
自分が幸せなら、
人の不幸せを願っ
たりしない﹂
ツヨシ君はそう言うと
、
手すりに背中を持たれかけ、
﹁
分かるよ。
僕もそうだから﹂
と言っ
て、
笑顔もなく笑っ
た。
※
ある日のことだ
。
学校から帰
っ
てきたら、
ねずみ色のジャ
ンバ|
を着て、
頭にタオルを巻いた
、
おじさん達に出くわした。
おじさん達は
、
イトカワさんの依頼を受けて、
部屋のダクトにできたスズメの巣を撤去しようとしているところだ
っ
た。
その前の週
、
イトカワさんは長期の出張に出かけたらしく、
長い間、
家を不在にしていた
。
その隙に、
スズメはせっ
せと小枝を運び入れて
、
巣作りを成し遂げたのだ。
ゴソゴソ
。
おじさんがダクトの中に、
体の半分をのめりこませる。
引き抜かれた手には
、
毛マリみたいな形をしたスズメの巣があっ
た。
そして
、
その巣の中央には、
小さなタマゴがくるまれていた。
ち
ゅ
んちゅ
ん。
ちゅ
んちゅ
ん。
スズメの夫婦が
、
電線で悲しげにさえずっ
ていた。
ねずみ色のおじさん達も
、
取り出したはいいものの、
スズメの巣をどうしたらいいものか
。
途方に暮れている様子だっ
た。
彼らはしきりに
、
部屋の前に座り込んで、
その作業の一部始終を眺めていた私をチラチラと伺
っ
た。
おそらく
、
私がいなかっ
たら、
巣をゴミ箱に放り込んで、
それで終わりだ
っ
たに違いない。
結局
、
彼らはスズメの巣を、
イトカワさんの部屋の電気メ|
タ|
の上に置いて
、
﹁
こうすれば、
もしかしたら、
うまくいくかもしれないからな
﹂
そう言っ
て、
その場を去っ
ていっ
た。
もちろん
、
ウソだっ
た。
私は彼らが思っ
ているほど、
子供ではなかっ
た。
真夜中
、
仕事から戻っ
てきて、
台所でしくしく泣く母を、
ふすま越しに見て育
っ
てきた。
スズメの巣というものが、
どういうものかは分からなか
っ
たが、
少なくとも、
換気扇のダクトの中に密やかに作られるものが
、
人目にさらされた電気メ|
タ|
の上で生きていけるわけないことぐらい
、
とうに理解していた。
だから
、
私は、
スズメの巣を譲り受けることにした。