第
1
1
のサヨナラ愛の鉄の巣
。
その2
小学生の頃
。
中板橋の公園近くで
、
母と二人
、
アパ|
ト暮らしをしていた。
築何十年
。
強い風が吹くと、
ガタガタガタガタ。
部屋中が震える
。
小さな1D
K
のアパ|
トだっ
た。
私はそこで母と二人
、
身を寄せ合うように暮らしていた。
アパ
|
トを訪ねてくる人は、
ほとんどなかっ
た。
私達の部屋に限
っ
た話ではなく、
どこもみな同じだっ
た。
ところどころにひび割れた
、
見るからに、
貧相な作りのせいだろう。
儲け話を持ち込んでくる
、
胡散臭い営業マンでさえ素通りした。
毎年
、
6月になると、
若いスズメが巣を作りに来た。
若い夫婦が不動産会社の車に乗
っ
て、
周囲のこぎれいなアパ|
トやマンシ
ョ
ンをめぐっ
て品定めするみたいに、
若いスズメの夫婦がちゅ
んちゅ
ん、
さえずりながら、
周囲を飛び交うのだ。
スズメが
、
巣作りを希望する場所は、
いつも決まっ
ていた。
私達の隣の部屋に住む
、
イトカワさんという、
うだつの上がらない、
浪人生みたいな風貌の人が暮らす
、
202号室の換気扇が一番人気だ
っ
た。
イトカワさんは仕事のために
、
朝から晩まで、
家を空けることが多く
、
自炊をすることもなかっ
た。
用をなさない換気扇のダクトに目をつけたスズメの夫婦は
、
小さい枯れ枝を一本
、
一本、
口にくわえて運び込んだ。
深夜
。
家に戻っ
てきて、
スズメの侵入に気づいたイトカワさんが、
グオオオオ
、
換気扇を回して抵抗する。
すると、
せっ
かく積み上げた枯れ枝は
、
吹き飛ばされて散っ
た。
小さな
、
小さな枯れ枝だっ
た。
一体
、
何本積み上げれば、
それは巣と呼べるものになりうるのか。
それは気が遠くなるような作業だ
っ
た。
それでも、
スズメはあきらめなか
っ
た。
イトカワさんが家を出るのを見計らっ
て、
また、
ちゅ
んち
ゅ
ん、
さえずっ
た。
※