第
1
1
のサヨナラ愛の鉄の巣
。
その1
52階から見下ろす世界は
、
何もかもが小さく映る。
車がマ
ッ
チ箱なら、
人間なんてマッ
チ棒ほどの大きさしかない。
街並みは
、
手を伸ばせば、
触れることもできる、
まるで誰かが作
っ
た精巧な模型のように美しい。
ここに越してきたばかりの時は
、
心が躍っ
た。
すべてが
、
うまくいくと信じることができた。
あ
っ
ちのビルをこっ
ちに、
こっ
ちのビルをあっ
ちに。
ポキっ
と折っ
て
、
入れ替えて、
継ぎ足して、
そんな風に人生を思い通りにできると無邪気に信じることができた
。
なぜだろう
?
あの頃と何ら変わらずに輝く街並みを見ていると
、
自分一人が見捨てられたような気にな
っ
てくる。
自由にならないのなら
、
い
っ
そのこと壊してしまいたい。
子供のようにそんな風に思う
。
﹁
本当に出て行くの?
﹂
す
っ
かり後片付けが済んで、
何もなくなっ
た部屋の中に、
ボオっ
とかすかな火が灯る
。
タバコに火をつけたツヨシ君の顔が
、
煙に歪む。
﹁
レイコさんの人生だから、
とやかく言うつもりはないけど﹂
笑
っ
ているのだか、
悲しんでいるのかよく分からない顔だっ
た。
﹁
お七っ
て、
知っ
てる?
﹂
と私は言っ
た。
﹁
お七?
﹂
﹁
そう、
何とかお七。
江戸時代の話﹂
﹁
何それ﹂
﹁
好きな人に会うために、
江戸の町に火をつけるの﹂
﹁
何のために?
﹂
﹁
火消しなの。
好きな人が。
だから彼と会うために、
わざわざ火事を起こすの
﹂
ごほんごほん
。
ツヨシ君がむせかえる。
﹁
それは、
ずいぶん、
迷惑な話だね﹂
﹁
そう?
ッ
クだと思うけど﹂
﹁
レイコさんらしくない﹂
笑うツヨシ君に
﹁
あたしらしさっ
て何?
﹂
と私は問いかけた。
ん
~
。
ツヨシ君は立ち上がると、
ゆっ
くり私のもとへ歩いてきた。
くわえタバコの光点が
、
ゆらゆらと揺れる。
ツヨシ君はガラ
っ
と窓を開けると、
素足のままベランダに出た。
私も後に続く
。
風がひどく冷たい。
﹁
ほんと、
きれいだね﹂
ツヨシ君が
、
ベランダの手すりに身を乗り出してつぶやく。
その口からポロリと
、
タバコが落ちた。
﹁
あ﹂
私は一瞬
、
東京が火の海に包まれることを夢想した。
だが
、
タバコは風に舞っ
て、
東京タワ|
に向かっ
て飛んでいっ
た。
小さな光点は
、
無数のネオンにまぎれて見えなくなっ
た。
※