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第
1
0
のサヨナラハルウララ
、
サイレンスズカその8
※
大けや木に目を細める
。
今日
、
ツヨシに別れを告げるつもりだっ
た。
会社は上場を目指す
。
来期には、
準備室もスタ|
とする。
これ以上、
スキ
ャ
ンダルのリスクを抱えながら、
生き続けるわけにはいかない。
ただ
、
どうやっ
て切り出していいか分からなかっ
た。
分からないまま
、
話はおかしな方へ進んでいる。
まさか、
40も過ぎて、
競馬場で
、
人生を賭けることになるとは思わなかっ
た。
もしかしたら
、
ツヨシは、
何もかも承知の上なのかもしれない。
そう思
っ
た。
きっ
とそうだろうと思っ
た。
考えたくなかっ
た。
今
、
この瞬間、
三笠は何をしているだろう。
別れた知己を思
っ
た。
その後
、
実家のある北陸に移っ
たと風の噂で聞いた。
実家を継いで
、
母親を介護しながら、
H
P
制作の下請けなんかをやっ
ているらしい。
先月
、
一枚、
絵葉書が送られてきた。
おそらく
、
体を壊しているという母親と、
それから高校生になる娘と一緒に
、
おそらくは病院で撮影したものだろう。
壁紙が病的なまでに白か
っ
た。
写真の中の三笠は
、
見たことないくらい屈託のない笑顔を浮かべていて
、
写真の下には、
ただ一言、
﹁
元気か﹂
とだけあっ
た。
バブル真
っ
盛りの最中。
浮かれる世間をよそに、
互いに、
なんか一発かましてやろう
っ
て願っ
て、
会社を起こした仲だっ
た。
ようやく立ち上げたポ
|
タルサイトが、
デ|
タトラブルでストッ
プした時には
、
三日三晩、
客先に頭を下げるために一緒に走り回っ
た。
掲載クライアントが100件を突破した時は
、
汗くさい、
襟が茶色くすすけたシ
ャ
ツのまま抱き合っ
て喜んだ。
﹁
元気か﹂
じゃ
ねえよ。
何だよ、
それ。
ち
っ
とも元気じゃ
ねえよ。
﹁
何、
笑っ
てるの?
﹂
ツヨシが言う
。
俺は首を振っ
た。
※
﹁
1番だ﹂
俺は言
っ
た。
予想紙も何もないから
、
どれが人気なのかよく分からない。
でも、
それでいいと思
っ
た。
自分の人生なのだ。
他人がどうこういう問題ではない
。
﹁
ねえ、
もしもさ﹂
ツヨシが言
っ
た。
﹁
もしも、
ハルウララとサイレンススズカが一緒に走っ
たら、
どうな
っ
ていただろうね﹂
﹁
一緒に?
﹂
そんなの勝負にならないだろう
。
俺は応える。
ツヨシは
、
違う違うと首を振ると﹁
むしろ、
いい友達になれたと思わない
?
﹂
と言っ
て、
笑っ
た。
﹁
一周、
差がついてさ。
そしたら、
お互い、
肩を並べて走っ
たかもしれないよね
﹂
﹁
そうかもしれないな﹂
予期せぬ言葉に、
俺も思わず微笑んだ。
ツヨシは何が言いたいのだろう
。
考えた。
もしかしたら
、
そのありえない光景が、
今なのだと言いたかっ
たのかもしれない
。
本当のところは分からなかっ
た。
パンパカパ
|
ン。
過ぎていく時を告げるフ
ァ
ンファ
|
レが鳴り響いた。
サラブレ
ッ
ド達がゲ|
ト入りを始める。
きたきたきた
。
ツヨシがぴょ
んぴょ
ん小刻みに跳ねる。
スクリ
|
ンに1番のゼッ
ケンをつけた馬が映し出される。
黒光りする
、
他より一回り小さな馬だっ
た。
俺のために走れ
。
三笠のために走れ
。
レイコのために走れ
。
ツヨシのために走れ
。
みんなのために走れ
。
そう心の中で何度か呟いて
、
空を仰いだ。
ゲ
|
トが空いて、
サラブレッ
ドが走り出した。
了