のサヨナラ
ハルウララ
サイレンスズカ
その1
馬は
誰のために走るんだろうね
日本一長いと言われている東京競馬場の直線を
ムチでピシピシ叩かれながら駈けていく
サラブレ
ドを見ていたツヨシが
ふと呟いた
まさか
自分に賭けてくれた人のために走
ているわけではない
よね
ぶひひひひ
先にゴ
|
ル板を駆け抜けた馬がいななく
走りたいから
てんだ
考えすぎだろ
俺は言
走りたいから
 
ツヨシが目を細める
そうは見えないけど
いわれてみれば
体の表面に浮かび上が
どくどく脈を打つ血
管は
まるで
ムチを打たれたみみずばれのように見えなくもなか
それだけ見れば
たのか
負けたのか
判別はつかない
ただ
疲弊しき
しいだけだ
そういえば
かつて
負け続けることで
の感動を得たサラブレ
ドがいたと思
ハルウララ
そう
そんな名前
デビ
|
以来
連戦連敗
負けても
負けても
なお全力を尽くして走る
その姿が
お涙頂戴のブ
|
ムにな
た時代があ
馬鹿馬鹿しいことだ
当時
俺はマスコミの馬鹿騒ぎを嘲
うど
癒し
という
言葉がはや
ていた頃だ
所詮は
報われない自分を重ね合わ
せる
敗者のたわごとだと思
ていた
雄也さんは
強いから
ツヨシは笑う
弱い人の気持ちが
分からないんだよ
弱い人の気持ちが分からない
これまで
何度も繰り返し聞かされてきた台詞だ
そんなもんだろうかと俺は答える
そんなもんだよとツヨシは笑う
俺は
ツヨシと一緒にタ
|
フと客席を区切る手すりに
体を投げ出すようにしてもたれかか
そうや
馬の視線にな
たつもりで
観客席を見渡してみる
なだらかな傾斜を描いた観客先には
くすんだ色の服を着た人間た
ちが
新聞紙を広げて腰を下ろしている
時折
風にあおられて新
聞紙がはためく様は
ひどくみすぼらしい
まるで
芝生の上に捨
て置かれた
馬の糞のようだ
自らが血力を振り絞
て走ることが
見知らぬ誰かの賭けの対象となる
ふと思いついたその構図が
資本主義によく似ていることに気づく
誰のために走るか
てことは
何の為に働くのか
てこととイコ
|
ルだ
しかし
だとしたら俺は
一体
何の為に
胃痛薬と睡眠薬をむさ
ぼり
声が枯れるほど怒鳴りながら
働き続けているのだろうか
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