第1のサヨナラ
大好きな人とのメ
|
ルの終わらせ方。
その3
※
あいつに連絡をしようと
、
私は携帯を手にとっ
た。
きちんとサヨナラを言うべきだと思
っ
たのだ。
時刻は2時半を過ぎようとしていたが
、
もうこれを逃したら連絡を取る機会はなか
っ
た。
下手なメ
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ルを打てば、
律儀なあいつはまた返事を返してくる。
でも
、
それではダメなのだ。
携帯を開く。
大輔からメ|
ルは来ていない
。
そんなのはどうでもいい
。
本当はどうでもよくないけど、
いつも最優先事項なのだから
、
たまにはうっ
ちゃ
られてしかるべきだと思う
。
あいつの連絡先は容易に見つかる
。
後はボタン一つだ。
・
・
・
本当に電話するの?
少し怖くな
っ
て、
携帯を閉じる。
こんな時間に
、
後輩の女から電話がかかっ
てきたら、
内容云
々
は別にして、
自分に気があるっ
て思われるだけじゃ
ないの?
私はあり
っ
たけの理性を振り絞っ
て、
冷静に考える。
客観的に考える
。
※
﹁
あいつに、
腕枕をされているところを想像しろ﹂
大越君は
、
メ|
ルの件があっ
てから、
あいつのことをからかうようにな
っ
た。
﹁
あいつが、
いきそうになっ
てる顔を想像しろ﹂
あいつ自身には
、
一切セクハラ的な要素はない。
男というより
、
性別を失っ
た﹁
キコリ﹂
のような奴だっ
た。
でも
、
だからこそ、
みんな笑っ
た。
私も笑っ
た。
若い連中を中心に
、
あいつがセクハラの象徴のように扱われていたのは
、
大越君のせいというより
、
ぺらぺら喋っ
た私のせいだ。
ごめんなさい
。
でも、
今更そんなことを言っ
てどうする?
違う
。
貯金箱だ。
私はあのお金の行き先を知りたいと思っ
た。
パンパンに膨れ上が
っ
た貯金箱は、
知らない間に空になっ
た。
回収された金はどこへ消えてい
っ
たのだろう。
もし
、
気まずくなっ
たら電話を切ればいい。
しつこくしてくるようなら
、
着信を拒否すればいい。
もう二度と会うことはないのだ
。
最終的にはそれが言い訳になっ
た。
最後に一言
、
サヨナラを言うのだ。
※
けれども
、
あいつは電話に出なかっ
た。
10度目のコ
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ルの後、
電話は留守電につながっ
た。
機械の音声が喋る間
、
私は言うべきことをまとめ、
ピ|
と言う発信音の後に
﹁
長い間、
本当におつかれさまでした。
﹂
﹁
今日、
きちんと、
お別れ言っ
てなかっ
たと思っ
て、
お電話差し上げました
。
﹂
﹁
お世話になっ
たのに、
何もしてあげられなくて、
本当にすみません
﹂
﹁
ありがとうございました。
これからも頑張っ
て下さい﹂
﹁
サヨナラ﹂
たとえ留守電であ
っ
たとしても、
メ|
ルであっ
たとしても、
もう二度と会うことはないと
、
互いに分かっ
ていたとしても、
サヨナラを告げることは難しい
。
汗ばんだ手とは裏腹に
、
体は冷え切っ
ていた。
電話を切
っ
た後、
私はベッ
ドにもぐりこんで、
膝を抱えて丸くなっ
た
。
※
大輔と別れる時
、
私はきちんとサヨナラを言えるだろうか。
男からメ
|
ルの返事がない時、
私はよく、
来るべき別れの時を思い描く
。
大げさすぎるかもしれないが
、
それが、
私なりの対処法なのだ。
妄想の中では
、
私が泣きすがる時もあれば、
男が土下座する時もある
。
大概は
、
好きだけど別れなければならない。
私は悲劇のヒロインを演じている
。
でも
、
現実は違うと思う。
別れはいつも
、
さりげなくやっ
てくる。
それが最後の時だとは
、
誰も思いはしない。
人生は
、
あの貯金箱のようなものなのだと私は思っ
た。
私が肌身離さず持
っ
ている携帯電話の中には、
確かに
、
一日何十通にも及ぶ、
小さなやりとりが詰まっ
ている。
でも
、
その積み重ねの先に、
一体どんな幸せが待っ
ていると言うのだろう
。
私は
、
携帯電話を枕の下に放り込むと、
ただ目を閉じるに任せた。
そして
、
サヨナラ。
声に出さず呟いた。
了
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